一番美味い選手プロデュース弁当は? 12球団ファンクラブ評論家 ®が「野球以外」を徹底比較!
公開日:2016/5/28
『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』(集英社)という本がある。著者は野球ファンであるノンフィクションライター・長谷川晶一氏。彼が12のプロ野球全球団のファンクラブに10年間入会し続けた(!)記録だ。贔屓の球団、ではない。全球団である。もともと酔狂で始めたことが編集者の目にとまって雑誌の企画となり、以降、各球団のファンクラブのサービスを長期にわたって 比較するには最適と自腹で続行。その記録をまとめた一冊は、2014年に刊行され、プロ野球ファンのみならず、球団関係者にも大きな衝撃を与えた。以降、長谷川氏は本業の傍ら12球団ファンクラブ評論家(R)(商標をとっているとのこと)としても活動している。
その長谷川氏が、この春、再び衝撃の一冊を刊行した。その名も『このパ・リーグ球団の「野球以外」がすごい!』(集英社)。プロ野球なのに“野球以外”っていったい……?
実はこれ、パ・リーグ6球団の試合、すなわちスタジアムに通い詰め、そのサービスや設備など「野球以外」の要素をウォッチング・体感・批評したもの。球場グルメや各種イベント、グッズなどがこれでもかと登場する。ファンクラブ本に続く、これまた酔狂な企画、何をきっかけに始めたのだろうか。
長谷川氏(以下長谷川)「そもそもはパ・リーグ自体からの依頼だったのです」
なんと、まさかの当事者から! 実はパ・リーグにはパ・リーグ球団の地域密着、リーグ全体の振興を企業理念とした、6球団が共同で経営するパシフィックリーグマーケティング(通称PLM)という会社があり、長谷川氏のファンクラブ評論活動を知った関係者から打診があったのだという。
とはいえ、そこは12球団ファンクラブ評論家(R)。単なる球場・サービス紹介にはなっていない。「いいことはいい、悪いことは悪いと書きますけどいいですか?」という長谷川氏(そもそも長谷川氏は熱狂的なヤクルトファンである)の申し出にPLM側も同意した結果、生まれた本なのだ。
こうして始まった長谷川氏のパ・リーグ行脚。選手プロデュース弁当を食べまくったり、イベントというイベントに足を運んだり、記念グッズからトンデモグッズを買いまくったりと精力的に調査! 挙げ句の果てには各球場の最寄り駅からの所要時間・徒歩数を正確にカウントしたり、球場のトイレのメーカーを調べたり、グッズの通販購入の際の宅配業者や配送スピードを比較したりと、そのまなざしはファンクラブ本同様、狂気の方向へ。「やはり何か独自性を出したいと思い……。最寄り駅からの所要時間は、自分の感覚ではありますが、アクセスガイドとの違いも感じていたので」というからガチすぎる。そんなハードな取材(ちょっと楽しそうだけど)の中で最も大変だったのは何だったのだろう?
長谷川「選手プロデュース弁当ですね。1観戦2弁当食べるというノルマを自分に与えていたのですが、もともと少食なので……」
かなりお酒が好きだと聞いています。
長谷川「はい。だから食事は3軒くらいのお店でちょっとずつとるのが本来の姿。ハイ塩分・ハイカロリー・ノーベジタブルといった弁当をいっぺんに食べるのがけっこうしんどくて(笑)。弁当を食べるために体調を整えているような日々。3連戦で6個になるのですが、僕にとっては“もうひとつの3連戦”でした」
本書の中で柳田悠岐(ソフトバンク)の「ギータの焼き魚好きッス弁当」を賞賛していた長谷川氏だが、肉や炭水化物系が多勢を占める選手プロデュース弁当の中で、それはホッと一息つける味だったのかもしれない(魚は3種類も入っているけど)。
長谷川「ソフトバンクと楽天の弁当は種類が豊富なので、選びがいもあるんですよ」
おそらく、そんな比較をできるのは日本広しといえどもこの人だけだろう。
このように、ファンクラブ本に続き、いろいろな意味でかつてない野球本に仕上がった『このパ・リーグ球団の「野球以外」がすごい!』。それにしても、こんな本をNGなしで依頼するなんて、パ・リーグの懐の深さにも驚く。
長谷川「取材を通してパ・リーグは各球団、本当にがんばっていると感じました。CS(顧客満足度)をすごく意識しているし、先も見据えている。野球人気が落ち込むことへの危機感をもってやっていると思います。野球ファンにはこの本を通して球場には“野球以外”で戦っている人もたくさんいることを是非知ってほしいです。“諸君、これも野球だ!”と」
プロ野球は野球だけで成り立っているのではない。行いは酔狂でも、そこから見えてくることは実に崇高な現実なのだ。こんな怪書(ホメ言葉)を出し続ける長谷川氏(12球団ファンクラブ評論家(R))だが、この先、どこへ向かうのか、とたずねると、「まだ言えませんが、この先もいろいろ考えていますよ……フフフ」と不敵な笑み。三度、奇想天外な野球本の登場を期待せずにはいられない。
取材・文=田澤健一郎