鈴木砂羽「40代は泰然と、これだと思うことに心血を注ぎたい」
公開日:2016/6/6
「映像は、持っているものをパッと出す瞬発力の勝負。舞台は、毎日毎日稽古をする、その蓄積が魅力。同じことをしているようで毎日違うし、何回も何回もやっていくうち、自分でも発見があって刺激的です。なぜ、私が年一回必ず舞台をやるかといえば、やっぱり、そういう職人作業が好きだからなんだと思います」
自由奔放に見えて「伝統も様式美も好きです。なんたって文学座出身ですから(笑)」と語る。
「せりふも一言一句変えるなと言われれば、そうしたいし、尊敬できる人の言うことを全部信じてやってみたい気持ちがあります」
『マクベス』への意気込みは十分だ。
「萬斎版のマクベス夫人といえば、私がお姉様と呼び尊敬する女優、秋山菜津子さんが演じた役。私で大丈夫なのかなって、プレッシャーは感じます。世間では悪女とか悪妻みたいに言われる役ですが、私はそういう印象を抱かなかった。むしろ、けなげじゃないかと。マクベスも大志と野望がある人。だからこそ、彼の野心が魔女というかたちで現れた。彼にそういう気持ちがあることを、奥さんも知っていて、だったら、やってやろう!みたいな。きっと稽古や本番でどんどん膨らんでいくと思うけど、今はそう解釈しています」
振り返れば、女優として必ずしも順風満帆だったわけではない。むしろ試行錯誤しながら、ちゃんと傷ついて、ちゃんとすり傷をつくってきた感じがするところが、この人ならではの存在感の秘密ではないか。
「ほんと、ボロボロですよ。20~30代はそれこそ満身創痍。人の言うことに振り回されて、ちっちゃい女でしたね(苦笑)。あの頃、全身タイツでパフォーマンス的なバンドをやったりしたのも、もっといろんなことをやりたいのにやらせてもらえないフラストレーションからだったし、マンガを描き始めたのもそう。私が演じる役はいつも誰かのライバルか、誰かの親友で、そうじゃない自分もいるのに、なかなかうまくいかず、自分の中のクリエイティビティが枯れてしまわないように、なんとかつなげたくて必死で自分なりに行動していたんでしょうね」
人の色気というものは、思うにまかせない時も、もがいて戦った証なのかもしれない。
「20~30代は、ちまちま、いろんなことに悩んでましたね。今思えば、笑い話なお酒の失敗談もその頃の話。インパクトが強いので、ずっとそんな印象かも、ですが、私の中では終わったこと。40代はもっと泰然と、これだと思うことに心血を注ぎたいですね。そういうタイミングでいただいた舞台なので、情熱を注ぎたいです。ここからまた新しいサイクルに入ったとしたら、とても嬉しいです」
(取材・文=瀧 晴巳 写真=下林彩子)
鈴木砂羽
すずき・さわ●1972年静岡県生まれ。94年、映画『愛の新世界』で主演デビューし、ブルーリボン新人賞、キネマ旬報新人賞などを受賞。舞台『十二人の優しい日本人』『欲望という名の電車』、ドラマ『相棒』『まれ』『オトナ女子』、映画『夢売るふたり』『俺物語!!』など。月刊『YOU』にて、エッセイマンガ『いよぉ!! ボンちゃんZ』を連載中。
ヘアメイク=真知子(エムドルフィン) スタイリスト=寳田マリ 衣装協力=PESERICO
死んだはずの近所の犬モモとの交流をきっかけに霊感体質に目覚めた著者が自らの体験をまじえながら、スピリチュアルなテーマを案内する。パワースポットの正しい参拝の仕方やダメスポの撃退法、金運の引き寄せ方、見えない世界との付き合い方など開運に役立つ知識を盛り込んで描いた人気コミックエッセイ。
舞台『マクベス』
原作/シェイクスピア 構成・演出/野村萬斎 出演/野村萬斎、鈴木砂羽、小林桂太、高田恵篤、福士惠二 6月15日(水)~22日(水) 世田谷パブリックシアター
●わずか5人の出演者で登場人物の心理を丹念に描き、国内外で高い評価を得てきた萬斎版『マクベス』。シェイクスピア没後400年の今年、4度目の上演となる今回はマクベス夫人に鈴木砂羽を迎える。魔女の予言を信じ、破滅の道をたどるマクベス夫妻(野村萬斎、鈴木砂羽)の運命は? 新たに和楽器の生演奏を取り入れた演出にも注目。