”死の瞬間”、あなたは笑っていられますか? 2800人を看取ってきたホスピス医が学んだ「後悔のない最後を迎える」ための生き方
公開日:2016/6/8
人がみな平等に持っているものは何だと思いますか? それは「明日」です。太陽がのぼると朝がきて、新しい一日が始まります。それを「当たり前」だと思って生きている人が大多数でしょう。普段から「明日はないかもしれない」と今日を過ごしている人は、そうそういないはずです。だけど、もしも「明日」が自分には訪れないと分かってしまったら……。
『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(小澤竹俊/アスコム)は、これまで2800人以上を看取ったホスピス医の小澤先生が、死に直面する患者さんたちを相手にどう感じ、どう考え、自分には何ができるのか、様々な想いを抱きながら綴った「人生指南の書」です。
結論から言ってしまいましょう。人生の最後の瞬間に、後悔せず、安らかにこの世を去るには、日々、「今日が最後の日だ」と思って生きることが大切なのです。
しかし、これが中々難しい。そう思うように努めて考えても、ついやりたいことを後回しにしてしまったり、小さなことで腹を立てたり、自分の人生を平凡だと蔑んだりしてしまいます。死を身近に感じていない人々にとって、それが普通なのです。
けれど、もしも「今日が最後の日」だと思えたなら、あなたの見ている景色は大きく変わるはず。自分の価値。本当に大切なものに気付くことができるのです。そのことを優しく、実体験を元に教えてくれているのが、本書なのです。
小澤先生は言います。
何の疑問もなく「明日のことを語ることができる」というのは、それだけで大変な宝物を手にしているようなものなのです。
ホスピスとは、ターミナルケア(終末期ケア)を行う施設のことです。死を目前にした人々の身体的、感情的な苦しみの緩和を目的としています。そんな方々を看取ってきた小澤先生の言葉には、底知れない深さがあると思いました。
ふがいないと悩まずに、「無力な自分」を受け入れること。無力なままでもいい。無力だからこそ、逃げずにそばにいることができる。
小澤先生は昔、医者という職業に無力さを感じていたそうです。患者さんの「なぜ自分だけこんな病気になるのか」という問いかけに答えられず、「私は死なないですよね。死なないと言ってください」という魂の叫びに応じることもできない。そんな自分を無力な存在だと、先生は悩み続けたといいます。
けれど、先生は気づきます。
本当に大事なのは、『患者さんの問題をすべて解決すること』ではなく、無力な自分を受け入れ、医者としてではなく一人の人間として『患者さんに関わり続けること』である。
無力だからこそ、患者さんの苦しみを共に味わうことができる。同じ目線に立つことができるのだと分かった小澤先生は、医療行為を行うことだけが医者の役目ではなく、そばにいることでも、誰かの支えになれるのだと気づいたのです。
人は誰でも、そこに存在しているだけで、誰かの支えになることができる。
この言葉は、明日を当然だと思って生きている人には、あまり響かない言葉かもしれません。けれど、考えてみてください。もし、自分の命が明日終わってしまうのなら、大切な人がそばにいてくれる、家族が一緒にいられることだけでも、幸せだと思えるのではないでしょうか。
裏を返せば、もしもあなたの大切な人が「今日で人生が終わる」という状況だったら、あなたに求めることは「お金をもっと稼いでほしい」「家事を手伝ってほしい」なんてことではなく、ただ、そばにいてほしいと思うことでしょう。
「今日が人生最後の日だと思う」ことは、自分にとって本当に大切なことが何かを教えてくれることです。そして毎日を大切に、丁寧に生きることの尊さを実感させてくれることでもあるのです。
最後に一つ、心に響いた言葉をご紹介しましょう。
なんでもない今日に感謝できる人は、本当の幸せを知っている。
どんな成功の日々も、平凡な日常に勝らない。
ただ生きているだけで、十分に価値がある。
確かに、きっと、そうなのだと思います。
文=雨野裾