なぜ眠りとうまく付き合えない? 睡眠専門医が教える、光を利用して「睡眠をコントロールする方法」

ビジネス

公開日:2016/6/6


『朝5時半起きの習慣で、人生はうまくいく!』(フォレスト出版)

 食欲、性欲、睡眠欲。三大欲求のなかでもっとも付き合いづらいのが「睡眠欲」ではないだろうか。他のふたつに比べて、うまくコントロールできず、毎朝やるせない気分にさせられている人も多いだろう。

 たくさん寝たと思ったのにまだ寝足りない。翌朝早いのに寝付けない。睡眠時間を他のことに充てたい…。

 人はなぜ眠りとうまく付き合えないのか。そんな疑問に答えてくれる一冊をご紹介したい。

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■光を制するものが睡眠を制する

「体内時計の調節の90%が太陽に支配されている」

 こう述べるのは、医学博士・遠藤拓郎氏。睡眠医療認定医であり、「スリープクリニック調布」の院長である。遠藤氏の長年の睡眠研究によると、“光”ほど快適な目覚めをサポートしてくれるものはないのだという。良く眠り日中のパフォーマンスを上げたければ、もっと光を利用すべきだと。

 この持論を述べているのが、著書『朝5時半起きの習慣で、人生はうまくいく!』(フォレスト出版)である。2010年の発売以来、反響を呼びシリーズで累計35万部を突破している。

 この本を支持しているのは、早起き目的の人だけではない。「眠り」についての最新見解が述べられているからだ。この眠りの教えは、「良き眠り」と「良き生き方」を追求したい人はぜひ知っておくべき内容だ。

 良い眠りと“光”、どのようにつながっているのかというと、大きく3つ理由がある。

 ひとつは、先ほど述べたように「体内時計を調節」、つまりリセットしてくれるのが“光”なのだ。

 ヒトの体内時計は25時間という説を聞いたことがあるだろうか。なぜ25時間かというと、体内には「時計遺伝子」が存在するからだ。この遺伝子の発現量が25時間サイクルの中で増減するからだ。時計遺伝子が働かないと体は、寝たり・起きたり、細胞を修復したりといったことに対し、うまく活動できない。

 地球の自転24時間に対して、体内時計は25時間。朝に日光をいっさい浴びない生活をすると、ヒトの生活サイクルはズレてくる。

 この地球の営みと人体のズレをリセットしてくれるのが、朝日なのだ。

■朝日を浴びればストレスが減る

 ではリセットとは、どういうことか。それは、光の効能のふたつ目。体内の「メラトニン」の分泌を抑えてくれることと関係する。

 メラトニンとは、眠りを促す大事なホルモン。深夜2~4時に大量に分泌されるが、地球の巡りと体内時計が合わない場合、朝になっても大量に分泌される。メラトニンが分泌されたまま無理やり起きて、活動をしようとすると、肉体的・精神的にも苦しい。

「朝が来たからメラトニンはストップ!」そう、体に命じてくれるのが、太陽光なのだ。

 そしてもうひとつ、“光”が持つ力は、「ストレスを軽減」させること。

 うつ病という、幸福感や安心感を与える物質が脳内で足りなくなる病気はご存じの通りだろう。この治療に、日光浴が効くのだという。

 1986年から始まる、光とうつ病の研究によると、うつ病患者に「毎朝2~4時間、高照度の光を浴びさせたところ、症状に改善があった」との結果が出たとのこと。

 光にストレスを軽減させる効果があることは、医学的にも証明されているという。朝日を浴びることは、眠気を吹き飛ばし、ストレスを抑えてくれるのだ。

■朝起きたら30分~1時間の日光浴を

 朝日を浴びれば、「眠気やストレス」から解放されることは、理解できただろうか。このように朝日を利用すれば、睡眠をコントロールできる。

 けれども、むやみに睡眠時間を削るのは得策ではない。

 残念ながらヒトは最低でも「6時間の規則正しい睡眠」が必要であることが、1973年の研究で明らかになっている。「規則正しく毎日6時間眠れば、作業効率は落ちない」と。

 夜明け前に2~3時間寝る、など「超睡眠時間の削減」はお薦めできない。だが、ヒトの睡眠サイクルは90分単位。それを利用すれば、「4時間半」睡眠も可能だと遠藤氏は言う。

 しかし、スーパーエリートを目指さない一般人には、この6時間を死守することでも充分ではなかろうか。快適に眠り、起きるために、光をどう利用すべきか具体的に見ていこう。

 まず、眠気を飛ばしてくれる大前提の光。朝日とは、太陽光のこと。室内照明ではなく、5000~1万ルクスくらいのスーパー明るい日差しである。

 朝起きたら、この太陽光にあたり、日光浴の時間を確保すること。30分~1時間程度を朝日のなかで過ごす習慣を付ける。

 日の光の下で、新聞を読んだり、化粧をしたり、まどろむだけでも良い。日当たりの悪い部屋に住んでいるという人は、なるべく早く家を出ること。天気の悪い日でもカーテンを開けることは大事だそうだ。

 そして、ポイントは、週末も同じ起床時間を守ること。たった1日や2日の寝過ごしも、体内時計を狂わせてしまう。早起きのクセを付けたいのなら、週末も同じリズムで生活をすべきだ。さらに、人体には「履歴効果」もあるので、なるべく長い期間、同じ習慣を続けるとそれが体内時計のリズムとして定着する。特に日が長い春分から秋分までの今の期間は、体の「クセ付け」にはうってつけだ。

 ほかにも、「食事」や「運動」など、1日のパフォーマンスを上げる方法が数多く紹介されている。どれも難しいことではない。ちょっとした工夫だ。気持ち良く毎日が過ごせるように眠りに工夫をしたい人には、本書は、教科書的な一冊となるはずだ。

 再度いうが、「朝5時半起き」に魅力を感じない人もぜひこの本を読むことを薦める。この本はあなたらしく睡眠と付き合うために役立つだろう。

文=武藤徉子