名作『ポーの一族』続編スタート! 21世紀のモー様が描く、新たな物語の世界
公開日:2016/6/11
マンガ家の仕事場に定点カメラをセットし、そのペン先を追うNHK Eテレの番組『浦沢直樹の漫勉』。この番組に萩尾望都さんが出演した際、ホストである浦沢さんから、いつマンガを描くことを親に認められたのかという質問があった。「少女マンガ界の神」と尊敬を集め、「モー様」と慕われる萩尾さんの答えは衝撃的なものだった。
「『ゲゲゲの女房』のテレビドラマを見てからですね。つい最近、21世紀に入ってからですね」
浦沢さんはそれを聞いて「ん~!?」と反応し、のけ反っていた。NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』が放送されたのは2010年のことであり、萩尾さんがマンガ家としてデビューしたのは1969年だ。
「お母さんがね、テレビを見よったらね、水木しげるさんがね、一生懸命仕事しよんなったい」とおっしゃったというお母様。萩尾さんはさらに続ける。「私がね、なんかおちゃらけたことをしてると(母は)ずっと思ってたんですよ。まったくわかってなかった。うちの娘もこれをやっていたのか。『失礼いたしました』って」
ご両親との葛藤について、萩尾さん本人が書いた文章がある。1970~2000年代にかけて雑誌に掲載されたエッセイや文庫本の巻末にある解説などを一冊にまとめた『一瞬と永遠と』(朝日新聞出版)だ。影響を受けたレイ・ブラッドベリやヘルマン・ヘッセの本、マンガ、映画、舞台について、様々な人との出会い、旅先や若かりし日の出来事、手塚治虫氏の作品『新選組』がマンガ家を志すきっかけとなったこと、といった多彩な内容なのだが、通底するテーマとして親子関係の話が繰り返される。萩尾さんは自分自身を徹底的に掘り下げ、考え、分析し、答えを探していく。
親との葛藤を抱えて生きていることがきついと思いながらも、友人から「あなたはその葛藤をネタにいくらでもマンガが描けるじゃないの」と言われ、なるほどと思う萩尾さんは「そのネタが私の青春だし、そのネタを描き終えるとき、私は大人になれるのかもしれない」と考える――これが書かれたのは1998年。ということは、2010年以降「大人になった自分の物語」を描いているのだろう。
2011年、東日本大震災での福島第一原発事故がきっかけとなって描かれた『なのはな』のあとがきには、1986年に原発事故を起こしたチェルノブイリでは、土壌をきれいにするために菜の花や麦を植えている、日本もそうすればいいという友人の話に「それを聞いて私は、仕事をしたいという意欲がわいてきました」とある。その言葉通り、萩尾さんは2012年から『王妃マルゴ』、2013年からは『AWAY』の連載を開始、また『寄生獣』を原作とした「『ネオ寄生獣』」シリーズで『由良の門を』を描き、ハギオモト名義で『天使かもしれない』というデビュー以降初となるマンガ原作を手掛けるなど、以前にも増して精力的な執筆活動を行っている。
そして『月刊フラワーズ 7月号』では、ついにあの名作『ポーの一族』の続編がスタートした。『ポーの一族』は1972~76年、断続的に『別冊少女コミック』に連載された、吸血鬼(バンパネラ)となったことから永遠に14歳の少年の姿である主人公エドガーが仲間と各地を転々とする、18世紀から20世紀のヨーロッパを舞台とする物語であり、「萩尾望都」というマンガ家の人気を決定づけた作品だ。文庫版は全3巻、復刻版のフラワーコミックスでは全5巻の物語だが、そのラストは「どうしても話が終わったようには感じられない」という感想を持つ人が多い。
今回の物語は1944年1月、第2次世界大戦の戦火から逃れるため、イギリス・ウェールズ地方のアングルシー島にやってきたエドガーとアランが、ドイツ人の少女ブランカと出会うところから始まる。シューベルトが晩年に作曲した連作歌曲集『冬の旅』の一曲である『春の夢』がタイトルとなっていて、物語の重要なテーマとなるようだ。連載終了から40年、「21世紀のモー様」が描く新たな『ポーの一族』は、私たちにどのような感慨を与えてくれるのだろう。次回『春の夢 Vol.2』は今冬『月刊フラワーズ』に掲載される予定だ。そして萩尾望都作品未読という方は、これを機に素晴らしき「モー様の世界」にぜひとも触れてほしい。これから『スター・レッド』や『11人いる!』『トーマの心臓』『残酷な神が支配する』などを読めるとは……なんと羨ましい!
文=成田全(ナリタタモツ)