時給は80円!? 現役医師にきいたハードモードな日常 現役医師ブロガー対談【前編】
公開日:2016/6/16
医療の現場は、一般人にとって漫画やドラマでしか見ることのできない未知の世界。まして、医師の仕事やプライベートなんて想像すらつかない……。でも、だからこそ気になってしまうのが人の性というもの。
そんな医師のリアルな生活を垣間見せてくれるのが、現役医師ブロガーとして注目を集めている、産婦人科医のきゅーさんと、外科医のさーたりさん。この度、おふたりの著書『産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』と『腐女医の医者道』が発売されるということで、対談の場を設けることにしました。
実は、さーたりさんがきゅーさんのブログにイラストを提供した縁で知り合っていたおふたりですが、実際に対面するのは今回が初めてとのこと。医師ブロガーという共通点はありながら、男性と女性、そして産婦人科医と外科医という、異なるキャリアをもつおふたりに、医師のリアルな日常について伺いました。
©Sa-tari
医師の忙しさの最大の原因は、月10回以上の当直!?
ーー今日はよろしくお願いします! さっそくですが、普段の生活についてお伺いしたいと思います。おふたりともお忙しいとは思うのですが、実際どのようなスケジュールで働いていらっしゃるんでしょうか。
きゅー:午前中から14時くらいまで外来の患者さんを診て、それから手術が1日5、6件くらいかな。実は、みなさんが思ってるほど多忙ってわけでもないんですよ。ふつうの会社勤めの人とそんなに変わらないんじゃないかな。まあ、当直さえなければね。
さーたり:当直はキツいね。寝られないわけじゃないけど、いつ起こされてもいいように気を張ってなきゃいけないから。私は子どもが生まれる前まで、月に13回は当直に入ってました。
きゅー:13回を超えるとおかしくなってくるよね(笑) 最近はどんなに頼まれても13回以上は断るようにしてる。ちょうどおととい当直だったんだけど、ぜんぜん寝られなかった……。
ーーそんなにたくさん当直するんですか……!?
きゅー:自分の勤めてる病院はもちろんだけど、実は当直のバイトっていうのがあって、それでほかの病院に行くこともあるんです。
さーたり:ほとんど帰ってなかったから、何のために家借りてるんだろう?って感じ。同じ科に勤めてる旦那とも、家で顔を合わせるのは週二回くらい。だから、「電球切れた」とか、「トイレットペーパー補充しといた」とか、業務連絡は全部病院でしてました。
©Sa-tari
きゅー:同じ科で結婚するってどうなの?
さーたり:私はよかったよ。違う科だったらぜんぜん会えなかっただろうし。お互い、いまはめちゃくちゃ忙しいなとか、重症患者がいるから大変だなとか、話さなくてもわかったし。
ーー夜通し気を張ってなくちゃいけないなんて、想像しただけでどっと疲れてきますね……。睡眠時間はかなり短いんじゃないですか?
さーたり:当直が終わってまた出勤、っていうのが普通でした。子どもが生まれてからは、必須のもの以外は免除してもらってます。
自分のお腹の中が見たい!? 医師にとっての出産とは
ーーきゅーさんもお子さんがいらっしゃいますよね。奥さんのお産のときは、産婦人科医としてどんな気持ちだったんでしょうか。
きゅー:やっぱり、産科医になったからには、自分の子どもを取り上げたいっていうのは夢でしたね。でもね、『産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』のなかでも書いてるんだけど、痛がってる奥さんの姿を見て、おろおろしちゃった。出産直前までは、ぜんぜん役に立ってなかったと思う(笑)
©Sa-tari
さーたり:うちの旦那なんて、私の主治医が顔見知りの医者だったもんだから、入院した私を置いて2人で飲みに行ってましたよ! 2杯までならって約束だっったのにぜんぜん帰ってこないの。
きゅー:その話を聞いて思い出したんだけど……。実は僕の父親も産科医でね。僕が生まれるとき、母親が苦しんでる横で院長とお酒飲んでたらしい。しかも、生まれたら生まれたで、僕の口が大きすぎてショックを受けてそのまま帰っちゃったんだって。
ーーそのエピソードはすごいですね(笑)。さーたりさんは普段外科医として患者さんに手術をされてますが、ご自身の出産ってどんな感覚だったんですか?
さーたり:私はいま二児の母なんですが、ひとり目は普通分娩、ふたり目は逆子だったので帝王切開で出産しました。そのとき、お腹をひらくなら自分で見たいと思って、バースプランにそう書いたんですよ。
ええ! そんなことできるんですか……?
さーたり:ダメ元だったんですけど、最終的に執刀する主治医も看護師も、全員の許可がとれたんです。それで、手術中視界を遮るようにかかっている布を、透明のビニール製のものにしてもらって。ただ、帝王切開ってお腹の下の方を切るでしょ。手術中は麻酔がかかってるからなかなか起き上がれなくて。そうしたら、執刀医が気を遣って子宮とかお腹のうえにぼんって置いてくれたんですよ! 「きれいですね」なんて言って(笑)
きゅー:写真撮りたいとか、ビデオ撮りたいって人はたまにいるけど、さすがに自分のお腹のなかを見たいなんて変な人はいないな(笑) あ、でも、子宮筋腫の手術をしたとき、培養したいから細胞くれって人がいたな。
ーーやっぱり医療に携わる方にとっては出産への心意気(?)も違ってくるんですかね……。
医者は儲かる……は幻想? なんと時給は80円!
ーーさきほど、お酒の話が出てきましたが、医師同士で飲みに行くことって多いんですか?
きゅー:多いですよ! 産婦人科は女性が多いので、僕が女子会に混ざるかんじですね。それにしても女性の下ネタってエグいですね(笑)
さーたり:外科医は男性の方が多いので、私は逆に男子会に混ざる感じ。こっちは風俗の話も多いですね。
きゅー:男ってバカだなーと思うでしょ?(笑)
ーー話が下世話な感じになってきたところで、お聞きしたいことがあるのですが……。正直なところ医師の方って儲かるんですか?
さーたり:うーん、ピンキリじゃないかな。大学病院だと、若い医師よりふつうのOLさんの方が給料いいんじゃない?
きゅー:昔は研修医なんて、給料ほぼゼロだからね。今は国の研修医制度があって、きちんとお給料がもらえるけど。それでも額面で20万円くらい。
さーたり:私が研修医だったときは、制度ができる直前で、ひと月2万円とかが相場でした。そんななかで私の入った大学は、最初月14万円出すって言ってて。すごいいい病院じゃん!と思ってふたをあけてみたら結局4万8千円だった(笑) 時給に換算したら、80円くらい!
きゅー:僕の友だちで、時給換算して泣いてるやついたな(笑)
ーーそれってどうやって生活するんですか……?
さーたり:当直のバイトして稼いでましたね。
きゅー:いまの研修医は恵まれてるよね。きちんと、税金とか保険料とか引かれた額が支給されるから。バイトで稼ぐっていうと、額面ではたくさんもらってるように見えるんだけど、確定申告したときにびっくりしちゃうんだよ。医者なんて、お金の勉強してないから。
ーーどれくらい経験を積めば、割に合う報酬がもらえるようになるんですか?
きゅー:役職がつくと、すこし報酬がもらえるんですけど……。科の人数が多ければ、それだけ回ってくるのが遅くなるし、一概には言えないですね。
さーたり:私フライトドクターやったとき、月5000円しかプラスされなかった!
きゅー:え、そうなんだ。僕も一回くらい乗りたいって思ってたんだけど、乗り物酔いがひどくて辞めたんだよね。
さーたり:『腐女医の医者道』の中でも登場するけど、私の同僚は乗り物酔いがひどいのに、ジャンケンに負けたせいでフライトドクターやらされてたよ。あれは大変そうだった(笑)
ーー割に合うか合わないかって考えると、医者は儲かるっていうのは幻想なのかもしれませんね……。
医師の日常は思った以上にハードモード
おふたりの話を伺うと、医師の日常が想像以上にハードモードだということがわかりました。時給80円は衝撃です……! そんなきゅーさんとさーたりさんの著書『産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』と『腐女医の医者道』では、よりリアルで興味深い医師の日常を覗き見ることができます。きゅーさんの著書は、妊娠・出産に関する知識がわかりやすくまとめられているし、さーたりさんの著書はクスッと笑えて次々読み進めたくなるコミックエッセイ。どちらも違った魅力があるので、この対談とともに、ぜひ2冊合わせて読んでもらいたい。
(イラスト=さーたり)
(取材・文=近藤世菜)
対談の後編は明日公開です!
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