人気医者ブロガーが語る医療マンガとリアルな現場事情〜ブラック・ジャックは存在するか? 現役医師ブロガー対談【後編】

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更新日:2016/6/17

 現役医師ブロガーとして活躍している、産婦人科医のきゅーさんと、外科医のさーたりさん。実は、このおふたりには、マンガ好きという共通点がありました。しかも、それぞれの著書『産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』『腐女医の医者道』でおすすめ医療マンガを紹介しています。

 そんなマンガ好きのおふたりに、医師から見た医療マンガの魅力や、フィクションで描かれる医療現場の実態がどこまでリアルなのか、気になる質問をぶつけました。

 また、不妊や男女の産み分け、外科医の専門分野についてなど、知っておいて損はない情報も! 現役医師ブロガー対談、後半戦スタートです。

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前編はコチラ

 

医療マンガってどこまでリアル? 現役医師がすすめる作品とは

ーーおふたりとも、著書のなかでおすすめの医療マンガを紹介されてますが、マンガお好きなんですか?

さーたり:好きですね。私はオタクを公言してるくらいですし。昔からマンガが大好きで。実は、手塚治虫先生に憧れて医師を志したんです。彼は医師免許を持ってましたから。

きゅー:僕もマンガ大好きなんですよ。マガジンのスーパードクターものはだいたい読んでるかな。最近のだと『フラジャイル』とか、知識とか設定がリアルでおもしろかったな。

ーー実はおふたりとも共通して『コウノドリ』をおすすめマンガにあげているのですが、どういったところが魅力なんでしょう?

きゅー:これまでの医療マンガって、手術とか救命のシーンがメインだったと思うんだけど、それってあんまりリアルじゃなくて。実際は、もっと地道なことの方が多いから。『コウノドリ』は、大げさな脚色はしてないのに、マンガとしておもしろいっていうのがすごいと思う。

さーたり:そう! 派手な演出なしでもエンターテイメントとして成立するんだって。それから、作者の方がきちんと取材されてるのが伝わってきました。ドラマもよかったです。

ーーとくに印象にのこっているエピソードはありますか?

きゅー:7巻のNICU(新生児集中治療室)編かな。普段僕らは、生まれたあとの子どもとあまり関われないから……、一読者としても医療従事者としても楽しめました。早期で生まれてしまった赤ちゃんはNICUに入れないと助からない。でも、すべての赤ちゃんが助かるわけでは無い事と、さまざまな家族のストーリーを紹介する事でとても上手に表現しているなと。

さーたり『コウノドリ』に登場する新生児科の新井先生って人は、自分を犠牲にしてでも赤ちゃんを助けたいって人だったんですが、そんな経験もあって新生児科を辞めちゃうです。実際の現場でも、一生懸命にやるすぎるあまり燃え尽きちゃう人も、やっぱりいるんですよ。

ーーなるほど……。実際の現場を知っている人が共感するくらいリアルな描写が魅力なんですね。ということは、逆に現実離れしていると「こんなのありえない!」って思うものですか?

きゅー:僕はぜんぜん(笑) なかには、あそこのモニターがついてないのはおかしいとか、細かいこという医師もいるけどね。

さーたり『ブラック・ジャック』なんか、まさに現実離れした話だしね。

ーーさーたりさんは、手塚治虫さんに憧れて医師を志したとのことでしたよね。

さーたり:手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』は医師を扱ったマンガの原点ですよね。ただ、『ブラック・ジャック』『コウノドリ』とは真逆。天才外科医がどんな病気も治しちゃって、法外な値段をふっかける。しかも医師免許も持ってないっていう。現実離れしてるけど、カッコいいですよね。まあ、医者になってから読むとツッコミどころ満載なんですけど(笑)

ーーメスを投げるシーンがありますけど、やってみたりとか……?

さーたり:ちょっと憧れますけど、やったら怒られます(笑)

きゅー:メスの切れ味ってすさまじいですからね。

©Sa-tari

ーーそうなんですか?

さーたり:軽い力だけでサーッと切れちゃうからね。包丁みたいな切り方したらズボって入っちゃうくらい。『ブラック・ジャック』の時代は研師がいたんでしょうけど、いまは使い捨てです。

ーー医療マンガとか医療ドラマで、教授回診の大名行列みたいなシーンよくありますよね。あれって本当なんですか?

さーたり:大学病院だと一応ありますね。でもマンガとかドラマで見るほど仰々しくないですよ。でも研修医のときは先回りダッシュしてエレベーターのボタン押したりとかしてました。『研修医ななこ』ってマンガにそのシーンがあって、これななこもやってた!ってちょっとテンション上がりましたね(笑)

©Sa-tari

きゅー:教授回診をやっていないので、なんとも言えないですね。ただ、よくドラマとかであるような、組織の中の人間関係がドロドロしてるみたいなイメージは違うかなって思います。正直、人手が足りなくてそんなことに構ってる暇はないです。

 

医師ブロガーがブログを通して学んだ伝えることの難しさ

ーーさーたりさんはご自身でもマンガを描かれてますが、なにか気をつけていることはありますか?

さーたり:おもしろくないことは描かないって決めてます。どこかクスッと笑えたり、皮肉がきいていたりしない限り描かない。どうしても真面目な話を描かなきゃいけないときは、どうすれば面白くなるのか考えます。

きゅー:やっぱり、面白さとか読みやすさがないと伝わらないですよね。

ーーきゅーさんはブログでも今回の著書『産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』でも、専門的な話をかなり噛み砕いて書いていらっしゃいますが、やはりわかりやすく伝えるのって大変ですか?

きゅー:ブログをはじめたころに書いていた記事なんて、恥ずかしくてよめないですよ。前置きがダラダラ長くなっちゃうんです。コツをつかんだのは最近です。実はこの技術って、外来の診療にも使えて。外来だとどうしても5分くらいしか患者さんと話せないんですけど、そうすると9割くらい忘れちゃうらしいんです。だから、まずは覚えてほしい単語を伝えるとか、自分でもう一度調べる方法を教えるとか、伝え方に工夫をするようになりました。

さーたり:読者の方からのコメントもかなり勉強になりますよ。自分はどうしても医者の感覚になってしまうので、一般の人はこういう伝え方だと嫌がるんだなとか、伝わらないんだなとか。とくに手術前後の説明に役立ちますね。それでも伝わらなかったら、絵で描くとすぐにわかってくれるのでいいです。

 

現役医師に質問! 妊娠確率を上げるには? 外科の科って多すぎない?

ーーそれぞれの専門分野に関して、質問させてください。まず、きゅーさんにお聞きしたいのが不妊のこと。妊娠確率を上げるにはどうしたらいいんですか?

きゅー:まずは生活習慣をきちんとさせること。不妊症はもちろん、子宮内膜症とか子宮筋腫とか、婦人科系の病気はとくに、身体の不具合が表面化してから治療っていうパターンがほとんど。でも、はじめから生活習慣を改善していけば、防げる病気や進行を遅くできるものも多いんです。睡眠をきちんととって、栄養バランスを整える。それから、定期的に検診を受けるのも重要です。

ーーなるほど。妊娠の話題に関連してなんですが、男女の産み分けって可能なんですか?

きゅー:僕自身は、男女の産み分けには否定的ですね。命の選別がされてしまうという倫理的な面はもちろんですが、世に出回っている産み分け方法は、ほとんどが眉唾物です。着床前診断で性別を知り産み分けをする事は可能ですが、これは本来流産率が高い方の妊娠率を上げるための技術です。もちろん、金銭的、精神的に負担にならない程度にいろいろ試してみるのは自由ですけどね。

ーーたしかに、あまり考えない方がいいかもしれません。次にさーたりさんにお伺いしたいのですが、外科とひと口に言ってもかなり幅広いですが、どんな症状でも診られるものなんですか?

さーたり:私の専門である消化器外科とか、乳腺外科、脳外科、神経外科……って専門分野によって細かく分かれてますね。ただ当直のとき、ほかに医者がいなければ自分が診るしかないです。当直マニュアルっていう本があるんですけど、お守り代わりに持ってますね。

ーー一般人からすると自分で何科を受ければいいのかわからないんですけど……。

さーたり:大学病院だと、何科を受診すればいいか振り分けてくれる専門の人もいます。一番いいのは、かかりつけ医を受診して、そこで大学病院の何科かを紹介してもらうこと。それから、消化器系の疾患は便の色で診断できることがあるので、きちんと見ておくといいと思います。

ーーおふたりともありがとうございます! 最後に、今回発売される著書の見どころを教えて下さい。

さーたり:現役外科医が描くコミックエッセイは、たぶん史上初だと思います。外科医という職種に親近感をもってもらえたらうれしいです。医師ならではの時短美容術とか時短レシピも随所に載せているので、働く女性の参考になるんじゃないかなと思います。

きゅー:気軽に読めるけれど、内容はかなり網羅的だと思います。妊娠、出産に関する正しい情報のひとつとして手にとってください。役に立つ知識を妊娠、出産の時期を追ってまとめているので、妊婦さんの予習復習に使ってもらいたいですね。

 

伝えることの大切さを知っている現役医師ブロガー

 おふたりがブログを通して感じたという、伝えることの難しさや大切さ。専門性の高い知識を持っているからこそ、言葉や絵を使ってわかりやすく伝えようとしてくれることは、患者にとってはとてもありがたいことのはず。

 医師というとなんだか遠い世界の人のように感じてしまいがちですが、おふたりの著書『産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと』『腐女医の医者道』を読むと、なんだか親近感がわいてきます。

 医療現場のリアルな様子を垣間見られるおふたりの著書は、医療マンガや医療ドラマが好きな人ほど、のめりこんでしまうかもしれません。

(取材・文=近藤世菜)

 

産婦人科医きゅー先生の本当に伝えたいこと

きゅー / KADOKAWA

「5分の外来で伝えられないことを伝えたい!」という一心からブログを始めた、現役産婦人科医きゅー先生によるどこよりも丁寧な妊娠&出産ガイド!
マタニティ期を安心して過ごせるような話から、「胎児の体重って実はいい加減!?」「逆子が戻らない確率はたったの5%」など、外来ではなかなか話せない本音や裏話までをたっぷりと収録。妊娠期をより安全に、より楽しむための1冊です。

腐女医の医者道

さーたり / KADOKAWA

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