「とりあえずいったん国を解散してほしい」 流動食系男子がつづった、99%が怒りの強烈インド旅行記!
公開日:2016/6/14
『インドなんてもう絶対に行くかボケ!……なんでまた行っちゃったんだろう。』(さくら剛/幻冬舎)を見かけたとき、私は「ついにメガネが壊れたか」と思い、レンズをきれいに拭いた。しかし、タイトルは下品なまんま。「なるほど、壊れたのは脳ミソのほうか」と合点し、脳外科を検索しようとポケットからスマートフォンを取り出したところで、決めた。「この本、買おう」。
本書は『インドなんて二度と行くか!ボケ!!……でもまた行きたいかも』の続編だ。そこらの草食系男子とは比べ物にならないくらい軟弱な流動食系男子、さくら剛氏が書いたインド旅行記だ。もちろん、ただのインド旅行記ではない。冒頭からインドに対して、特に北インドに対して大変不満があるようで「とりあえずいったん国を解散してほしい」とキレている。私は冒頭を読んで、はらわたがよじれた。つまり本書は、さくら氏の視点で書かれたインドに対する憤まん旅行記なのだ。巷で見かけるインドをほめたたえたビジネス本とはワケが違う。
『インドなんて二度と行くか!ボケ!!……でもまた行きたいかも』は10万部を超えるベストセラーであり、続編である本書にもその片鱗が随所に見られる。99%はインドに対する怒りの叫びなのだが、その内容がユーモラスでスイスイ読めてしまうのだ。それでは、さくら氏の叫びと共に、いくつかインドの真実を見てみよう。
あと10ルピーどこ行ったんだよオイっっ!!
インドでは、観光客から金を巻き上げる「ボッタクリ商法」が横行しているらしい。さくら氏は、ある外国人観光客が10ルピーで買ったナイスなスカーフが欲しくなり、その外国人観光客が入った店と同じ店に買いに行った。しかし案の定、店員に倍の20ルピーをふっかけられ、怒り狂い、交渉を重ねて、何とか 10ルピーでスカーフを購入できることになった。ところが、50ルピー札で支払うと、釣りで30ルピーしか返ってこなかったため、このナイスなセリフが飛び出した。これは本書の序盤の出来事である。私はこの時点で本書のタイトルに納得した。
観光できるかっっっ‼‼‼
インドの観光地では、観光客から金を巻き上げようと、インド人がわらわらと集まってくるらしい。カモがネギを背負って、出汁がぐつぐつ煮える鍋に向かうようなものかもしれない。観光地でボッタクるインド人たちが使う商法の11つが「ノーマネー商法」だ。ある女性がさくら氏の元に、首飾りを持って「ノーマネー」と言いながら近づいてきた。そして女性がさくら氏に首飾りをかけた瞬間、さくら氏が持っていた毛布を指さして「ギブミー」と言い出したという。金を要求してくることも多々あるらしい。この手の「ノーマネー商法」を企むインド人が次から次へと集まってくることに激怒した渾身の叫びだった。
おまえはアホだっ!!お前の前世は馬だ!!その前は鹿だ!!!
インドの観光地でタクシー代わりに活用されている「サイクルリキシャ」をご存じだろうか。読者の方々は、インドに行った際、この運転手に大変気をつけねばならない。いや、ブチギレなければなるまい。このサイクルリキシャに乗るには、まず運転手と料金交渉するのだが、もちろん乗る前からふっかけてくる。そして現地に着いた後も色々な理由をつけてふっかけてくる。サイクルリキシャの運転手は敵なのだそうだ。さらに!ここから心して聞いてほしい。運転手は「客を一人連れてきて○○ルピー」という形で旅行会社や土産物店と契約を結んでいる。つまり、油断するとすぐに目的地には全く関係のない旅行会社や土産物店に行ってしまうのだ。当然、この旅行会社や土産物店でもふっかけられる。さくら氏は、烈火のごとくキレて、鬼の形相で運転手を罵った。
これらは氷山の一角だ。このような絶叫があと100倍はつづられている。いや、ウソをついた。あと300倍の間違いだ。
私は「本書の99%はインドに対する怒りの叫び」と先述した。では、あとの1%は何か。それは、さくら氏が旅で得た哲学だ。インドには、物乞いをする人であふれている。そして、その対応が旅行者によって分かれるとか。一方は、物乞いに何かをあげる。もう一方は、徹底的に無視を する。そして後者の旅行者は大体こう述べるという。「物乞いに何かをあげるとキリがない。インドが発展したり、社会保障が整ったり、もっと根本的な解決策を考えないといけない。」至極もっともだ。しかし、さくら氏はこう述べている。
物乞いについて「たった1人救っても何も変わらないし。もっと根本的なところから解決しないとダメなんじゃね?」と言って与えるのを拒んでいる旅行者には実際に何人にも出会ったが、その中で本当に根本的な解決のために何か行動している人をオレは見たことが無い。なのでせいぜい目の前の1人に与えるくらいは、その国を旅させてもらっている旅人として行うべきじゃないかなあ。
私もそう思う。自分の身内やペットが飯に困っていたら、何とか 食わしてやりたくなる。悲しくなる。「もっと根本的に解決しないと」と、もっともらしく叫び、無視を決め込む人間は、きっと自分が政治家か何かになったつもりでいるのだろう。もしかしたら政治家本人かもしれない。
私は日本が好きだ。もちろん少々の不満もある。だが、平和だ。しかし、一度くらいはインドに行ってみてもいいと思う。人生を豊かにするには、笑える悲劇も経験しておく必要があるからだ。
文=いのうえゆきひろ