ツイッターやSNS…。一人ひとりがジャーナリストになれる時代だからこそ、身につけておきたい「伝える力」

社会

公開日:2016/6/22


『発信力の育てかた ジャーナリストが教える「伝える」レッスン』(外岡秀俊/河出書房新社)

 いまやツイッターやブログ、SNS上で個人の意見や考えを不特定多数の人々へ発信するのが当たり前の時代。ネット上では、一般の消費者による商品レビューや飲食店の評価などの投稿を目にする機会も多い。「ネットの情報を鵜呑みにするな」というのは、もはや周知の事実だが、レビューでの評価がすこぶる悪い商品やお店に対する先入観は、なかなか拭えないものだ。

 ネットを利用すれば、だれでも簡単に大量の情報を仕入れられる便利な時代だからこそ、その情報の出所を明確にしておくことの重要性は高い。なぜならネット上に情報を発信することは、だれにでもできることだから。極端な話、情報発信という行為そのものには、文章力も情報収集力も「記者」という肩書きもいらない。ネットが使える環境だけあればいい。物事をわかりやすくだれかに「伝える力」は、二の次三の次……。

 本や雑誌、新聞を読まない人が年々増え続ける一方で、SNSなどの普及による情報発信の機会は急激に増えた。「だれもが発信者(ジャーナリスト)になる時代」の到来である。

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 本書『発信力の育てかた ジャーナリストが教える「伝える」レッスン』(外岡秀俊/河出書房新社)では、元朝日新聞の記者であり、ジャーナリストとして30年以上のキャリアを持つ著者が、「伝える力」を伸ばすために必要なスキルを紹介・解説している。

 スキルは「情報収集術」「取材術」「編集術」「発信術」の4つ。大まかにいうと、まずは自分が伝えたいものを見つけるために情報を集め、客観的に物事を見つめながら情報を掘り下げたり裏付けを得たりするために取材する。そしてこれらの情報を読み手に理解できるように編集し、最適な媒体で発信していく。こうした一連の流れの中で必要な技術や知識を学ぶといった内容だ。

 本書は14歳前後の小中学生も読者の対象にしている。そのため、著者の外岡氏が自身の経験を通じて感じたことを、小中学生でも共感しやすい事例を交えながら解説しており、とにかく読みやすく理解しやすい。

 義務教育を終えた社会人であれば、読み進めていくごとに「伝える力」とはこういうことなのか、と納得させられるはずだ。文章を書くことは、たしかにだれにでもできる。しかし、わかりやすい文となると、そう簡単には真似できない。SNSを利用した情報拡散もできて当たり前。けれど、その情報が確かなものだと自信をもって言い切れる保証はなく、責任の所在は不確かだから、どうしても信憑性に欠ける。

 ではどんな文章ならわかりやすいのか? 信頼できる情報の伝え方とは? その答えは、本書を読んで学びとってほしい。

「ジャーリストの仕事は、だれもが日常でやっていることだ」と外岡氏は語っている。この言葉の裏には、だれにでもできることをプロとしてこなす責任の重さが込められているように思えてならない。自ら調べた事柄を、自分自身の言葉で、だれかにわかりやすく伝えること。それ自体は、だれもが日常生活の中で自然に行なっている。が、あまりに当たり前すぎて、きちんと学んでこなかったことでもあるだろう。

 外岡氏はジャーナリストとして働き始めたばかりのころ、学生時代に学んできた文章力がまるで役に立たないことを痛感したという。「若いライターが育つ環境がない」とは、私がいま所属する編集プロダクションの代表の言葉だ。「だからこの会社を立ち上げたのだ」と。わかりやすい文章を書く技術や物事を正確に伝える倫理観は、義務教育でほとんど教わってこなかったように思う。

 だれもが手軽に情報発信できて当たり前の現代――学校では教わらない「伝える力」は、現代人があらためて身につけるべきスキルなのかもしれない。

文=上原純(Office Ti+)