「働けないなら、風俗へ行けばいい」傷つけられて家から一歩も動けない『ひきこもる女性たち』【著者インタビュー】
更新日:2017/2/13
18年にわたって「ひきこもり」界隈を取材しているジャーナリスト・池上正樹氏が『ひきこもる女性たち』(ベストセラーズ)を上梓した。内閣府の調査によると、ひきこもり状態にある人の3割が女性だという(平成22年7月「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する調査)」。家事手伝いや主婦など、家にいる女性は珍しくないが、「ひきこもり」とは一体何が違うのか。池上氏に話を聞いた。
出産、介護、転勤が引き起こす「主婦のひきこもり」
――ひきこもる男性と女性の違いはなんでしょうか。
池上:女性のひきもこりは周囲から見えにくいんです。平日昼間に、男性が住宅街や家にいると周囲から不審がられますが、女性は何ら問題なく、むしろ親や夫から家にいてほしいと期待される。それから、結婚、出産、親の介護が契機となってひきこもり状態になることも。成績優秀で理想に燃えて働いていた人が、結婚や家の都合で断念せざるを得なくなり、自分の望む人生と現実のギャップを埋められず、社会との関わりを持てなくなるケースがあります。
――本書では「主婦のひきこもり」についても取り上げていますね。
池上:これまで、主婦は家事労働があるので「ひきこもり」ではないと調査対象から外されていました。しかし、取材する中で出会った女性は「夫を会社に送り出した後、日中は起き上がることもできず、外出できない日々が続いている。実態はひきこもりと変わらない」と言います。彼女は以前、会社員でしたが、とある事件の責任を被る形で退職させられ、専業主婦になったそうです。他にも、夫が遠方への転勤となり、それに伴い退職して専業主婦になったことがきっかけになった人もいました。「主婦」も職業の一つですが、その中には、夫や家族以外との関わりが途絶え、ひきこもって苦しんでいる人も潜在的に少なくないように実感しています。
行政窓口で「働けないなら、風俗へ行けばいい」
――ひきこもる人と、その手前で踏みとどまる人との違いとは?
池上:ひきこもる方の多くは感受性が強く「空気を読みすぎる人」です。他人の気持ちが分かりすぎてしまうため、イス取りゲームで他人に席を譲って譲って最終的にひきこもってしまう。一方では、空気を読むことが苦手なために、組織で動くことができず、疎外感を覚える人もいます。バブル以前は、職人気質でも仕事ができたのですが、今はマルチタスクが求められる時代です。成果主義の社会で、誰もが自分のことで精一杯。他人に気を配る余裕もなく、職場に家庭的な温かみは失われました。また幼少時の性被害だけでなく、職場でのセクハラ、パワハラが心の傷となっている人も多いと感じています。
――自治体によるサポートの現状は?
池上:大阪の豊中市、滋賀県の野洲市、秋田県の藤里町など、先進的に取組んでいる自治体もありますし、町田市(東京都)の保健所のように、ひきこもり実態調査を行い、アウトリーチなどの取り組みを行っている自治体もあります。しかし、ほとんどの自治体は担当者が2、3年で異動になるのでNPO任せだったり、ノウハウが共有されず旧態依然の状態が続いたりという所も少なくありません。当事者が勇気を出して自治体に相談しても、女性の場合、担当者から「働けないなら、風俗に行け」と追い返されるケースもよく耳にします。それぞれに事情が異なるので行政側はそれを受け止め、さらに人と社会資源をつなぐコーディネイターを育てることが必要です。ひきこもりサポートに関しては成功モデルが少ないので、前例や要綱を踏襲するのではなく、みんなが先の見えない課題の答えを見つけるため、パイオニアになる気持ちを持てるといいですね。
――周囲の人ができることはありますか。
池上:身近な自分ごととして救済を求めている方は、都道府県ごとに家族会があるので、連絡してみてください。同じ当事者家族として悩み苦しんできた、長年の情報やノウハウの蓄積があるので、解決のヒントになるかもしれません。公的なところでは、各都道府県や指定都市に、厚労省社会援護局の「ひきこもり地域支援センター」の相談窓口が最近、ようやく整備されました。ただ、行政側も、地域の当事者会や社会資源とのネットワーク化を図るなどして、きちんと相談者の思いを受け止め、一緒に答えを探して行けるような体制を整えてほしいですね。とくに、女性が安心できる居場所づくりは急務です。そして、この問題に関心のある人は、偏見、先入観、無理解が、彼女たちを傷つけ追い込んでいるということを知ってほしい。輝きたくても輝けない女性たちを作り出しているのは、社会の側にあると理解するのが第一歩です。
取材・文=松田美保