史上稀に見る、残虐なキャラクターの競演。サディストたちの殺し合いを描く、『SMOKE&WATER~マルキ・ド・サドの孫娘~』

マンガ

公開日:2016/6/22


『SMOKE&WATER~マルキ・ド・サドの孫娘~』(青木潤太朗:原作、品佳直:漫画/KADOKAWA)

 相手に肉体的、あるいは精神的な苦痛を与えることによって快楽を得る性的嗜好、サディズム。実在した作家、マルキ・ド・サドの名前を由来とする言葉である。このたび登場したマンガ『SMOKE&WATER~マルキ・ド・サドの孫娘~』(青木潤太朗:原作、品佳直:漫画/KADOKAWA)は、そういった性的嗜好を持つ人々、いわゆるサディストたちの殺し合いを描いた、なんとも衝撃的な作品だ。

 舞台となるのは、ビアノメーカー「マンナイア」が主催する「マンナイア芸術文化賞」の会場。そこへ集められた、各国の要人たち。彼らに共通するのは、みな一様に残虐なサディストであるということ。軍人、歌手、ピアニスト、科学者……と、表向きにはその界隈で一流と呼ばれる人々の「裏の顔」が暴かれる時、会場は血の海と化すのだ。

 主人公は、帝政ケルシェン国にて親衛騎馬隊「アクラブ」の副隊長を務める、アリス・シュテーケル。真っ白な肌と漆黒の髪を持つ、見目麗しい女性だ。しかし彼女は、どんな時でも感情の乱れを感じさせない冷酷さを持つ人物。本作の冒頭では、将来を誓い合う妊婦とその旦那を問答無用で射殺してしまうほど。もちろん彼らは無賃乗車という罪を犯してしまったがゆえに罰せられるのだが、それにしてもなんの躊躇いも感じさせないアリスは、冷酷といって間違いないだろう。

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 そんな彼女が闘うことになるサディストたちには、個性豊かな面々が揃う。娼婦から成り上がった美しい歌手、少年のような見た目にして凶悪強姦魔であるピアニスト、論理を追求するあまり人体実験も辞さない科学者……。人は誰しもさまざまな側面を持つというが、それにしても彼らは極端で恐ろしすぎるだろう。

 そして、彼らを集めたマンナイアの社長令嬢。この狂った闘いのきっかけを作った彼女こそが、生粋のサディストなのだ。では、その理由はなんなのか。それは、ピアノの音色の決め手となる、「ニス」を作成するため。材料となるのは、「女の子」。ここで、彼女の残虐性がわかるセリフを引用しよう。

どの楽器屋でも一度くらい人の肉を煮込んだことはあると思うけど、うちとは比べられないわ。例えば双子の姉妹。煮て殺したほうと殺して煮たほうは、だいぶ趣がちがう音になったわ。焼くか煮るかで音が変わるのよ

 なんて恐ろしいのだろうか。しかしアリスは、マンナイアの考えなんかに賛同はしない。「断種対象だ」と一刀両断し、刑罰を与えようとする。そうして、闘いの火蓋が落とされるのである。

 史上稀に見る、ドSなキャラたちの競演。今後、どのように残虐なバトルが繰り広げられていくのか、見たいような見たくないような……。そんな怖いもの見たさの感情を煽る、新しいサスペンスマンガの誕生をぜひその目で確かめてみてほしい。

文=五十嵐 大