一億総中流社会が崩壊した日本で生き残れるのは「中二」だけ!? すべてを「見下す」処世術とは?
公開日:2016/6/29
かつて、タレントの伊集院光氏がラジオで生み出した言葉「中二病」。本来は、思春期特有の背伸びした行動や中学二年生じみた妄想に対して「自分は中二病だ!」という自虐に用いられるが、近年は他人の中二的な発言や行動を揶揄して使うことが増えている。このように、マイナスイメージがある“中二病”だが、サブタイトルに堂々と“「中2」でなければ生き残れない”と掲げているのが、4月末に発売された『見下すことからはじめよう』(山田玲司/ベストセラーズ)だ。
さまざまな年代で流行した漫画や音楽などのコンテンツを主軸に、いかにして現代を生き抜くかを綴った同書。直近の2010年代は、人気漫画家・ONEの作品『ワンパンマン』や『モブサイコ』を例にあげ、漫画に漂う「さとり世代の空気感」について綴っている。
「ONEの漫画は『絶対的な能力』を持った『普通の人』が主人公だ。彼が作中で伝えようとしているのは『ものすごい力』なんてあったって、人は幸せになれない、ということにつきる。彼はモブサイコの中のセリフで『超能力なんかあってもモテませんよ』と描いている。このセリフは漫画の域を超えて『時代の変わり目』を示す一撃だろう。(中略)10年代を生きる若い世代は現実で一番になることはなくても、ゲームなどのバーチャル世界で『最強になる虚しさ』を何度も感じながら育っているのだ。
そもそも現実ではなれるはずがない『世界最強って何?』という思いと、そんなことより『ちゃんと朝起きてトレーニングしたり、人と話したりする方がすごいことじゃないのか?』という感覚が生まれてきたのが10年代なのだ」
そして、「最強」を求めなくなった10年代について「『力』があれば幸せになれる、という昔の価値観から距離を置き、『普通に生きる』ことに価値を見出すようになった」とまとめている。
そのほか、60年代には手塚治虫やダースベイダー、70年代は『機動戦士ガンダム』、90年代には『新世紀エヴァンゲリオン』など、各年代の人気コンテンツが写しだしてきた「時代の精神」をひもといた うえで、筆者が処世術として提唱しているのが「自分だけは特別だ」という自意識を持ち続けること、中二でありつづけることなのだ。
一億総中流社会が崩壊した日本では、就職や結婚など、いわゆる“普通”の生活を送ることはできなくなった。これまで「世間のみんな」がすごいと崇めていた場所やモノ、ステータスには何の魅力もなくなったことを意味している。
「経歴や職業と同様に全てあてにならない。(中略)『中二』と呼ばれる『幼児的万能感』を抱えたまま『自分は特別だ』と根拠なく思っていたほうがいい。
そして、それまで崇められてきた『すべての権威』を見下していい。それが『今』という時代の転換点にすべきことなのだ。
何が大事で何が必要ないのか?
どんな人間に価値があって、どんな人間が『ハリボテ』なのか?
そのすべてを自分が決めるのだ」
そして「他者の目に怯えて『思考停止の列』に並ぶくらいなら、僕は『中二』で結構だと思っている」と締めくくっている。自分のなかに価値基準を設けて、自ら生き方を選択していくことが「見下す」ことなのかもしれない。恥ずかしい過去としてあげられることの多い中二病だが、まさかそこに生き残るヒントがあったとは、目からうろこ……!
さまざまな時代の人気コンテンツの歴史に触れつつ、後半には「魅力のある人になる方法」やプライドの扱い方など、著者独自の“中二的生き方”が語られている。中二心を忘れ、生きにくさを感じている人にオススメの一冊だ。
文=谷口京子(清談社)