キャラ原案は志村貴子! TVアニメ放送間近、青春小説の金字塔『バッテリー』
更新日:2017/11/15
努力する天才というものがこの世には存在する。子供の世界にも、大人の世界にも変わらずに。進化し続ける彼らは最強で、ついていくためには自らも切磋琢磨していくしかない。自分一人じゃたどりつけない世界を目にすることができるだろう。だがその出会いは、果たして幸運といえるのだろうか――。
誰よりも傲岸で不遜な天才ピッチャー・巧と、彼を受け止める心優しきキャッチャー・豪。強烈に惹かれあうのに徹底的に相容れない、それでもバッテリーを組まずにはいられない二人のひりつく青春を描いた1000万部突破の『バッテリー』(あさのあつこ/角川文庫)が7月14日よりついにアニメ化される。キャラクター原案はマンガ家・志村貴子。監督はジブリ映画『海がきこえる』などで知られる望月智充。少年たちの瑞々しい少年を映し出す最強のタッグに、放送前から期待の声が高まっている。アニメ化を記念して発売される、アニメカバー版の表紙も要注目だ。
巧は周囲に才能をまざまざと見せつけ、ついてこられないものを振り落とす勢いで独走する。えらそうな物言いも、孤高をきどる態度も、巧だからこそある程度までは許される。……だけど天才も一人じゃ才能を開花できない。それがチームスポーツであれば特に。どれだけ速い球を投げられても、打者を翻弄できても、9人が一丸となって敵に立ち向かう野球では、相手が強くなればなるほど天才の独走だけでは試合に勝てないし、意味がない。
自分の速球を、絶対の信頼をもって受け止めてくれる豪の存在と出会い、巧ははじめて人を頼ることを知る。「誰の力を借りなくても最高のピッチャーになる。信じているのは自分だけだ」。実力もないのにえらそうな先輩や、立場が上というだけで管理してこようとする先生に反発し、そう断言していた巧は、仲間と触れ合うことで少しずつ、誰かとともに成長していく喜びを手に入れる。それがただのなれ合いなら、きっといつまでも一人のままだっただろう。巧に追いつこう、ともに高みをめざそうとしてくれるチームメートだからこそ、巧は彼らを信じるようになっていくのだ。
自分の意志こそが正義で、一人で立つことだけが強さだと信じていた巧。弱く守られるだけの存在だと思っていた弟・青波の優しい受容性や、まわりの意見をうけいれてしなやかに立ち振る舞う豪の懐の深さに、「強さとは何か」もつきつけられる。正しいと思っていた自分の真理が、もしかしたら絶対ではないのかもしれないとつきつけられたとき、巧がぶつかる最初で最強の壁が、読み手の心を揺さぶる。常に天才の傍にいることで「自分」と向き合い続けなければならない豪の覚悟に、読み手は胸を締め付けられる。
児童書として刊行されながら、20年以上も大人の心を虜にし続けている本作が描くのは単なる野球少年たちの青春だけでなく、生きる覚悟をいかに抱くかという問いだ。アニメ化を機に未読の方はぜひ手に取ってみてほしい。
文=立花もも