恋愛はプラトニック、性欲はお金で解決の分散投資型恋愛時代――『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』【湯山玲子インタビュー 前編】

恋愛・結婚

更新日:2016/6/28

「ベッキー騒動の強烈なバッシングは、恋愛の市場価値が下落していることの象徴」と語るのは、『スッキリ!!』(日本テレビ系)でコメンテーターも務める著述家の湯山玲子氏。『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子、二村ヒトシ/幻冬舎)では、ここ数年で男女の恋愛・セックス観が大きく変化したと指摘。その背景には何があるのだろうか。

湯山玲子氏

恋愛の市場価値はたった数年で急降下

――2010年の『四十路越え!』(ワニブックス)、2012年の『快楽上等!』(上野千鶴子と共著/幻冬舎)と、ポジティブに恋愛やセックスを楽しむ指南をした湯山さんが「セックスしなくなるかも」と題された本を出すとは驚きました。当時と何がかわったのでしょうか。

湯山玲子(以下、湯山):それだけ今の時代が、急変しているということです。この本には間に合わなかったのですが、ベッキー不倫騒動に対する世間のバッシングが象徴的です。恋愛は人間的な営みで、好きになって添い遂げたいと思う相手が結婚していた、ということは、当然、あることです。恋愛は社会制度を逸脱するという側面がある。しかし、復帰番組での謝罪シーンも含めて、もう「気持ちが動いた」ことがそもそもダメ、というメッセージが強烈に発せられた。つまり、それをダイレクトに受け取ると、「恋愛なんて怖くてできない」という意識ブロックが掛かってしまうことになる。となると、親も周囲も納得するスペックの良い人間としか付き合うべきじゃない、という考え方にも自然になっていきます。

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――『四十路越え!』で、年齢を重ねるごとに成熟した恋愛とセックスが楽しめるのだと勇気をもらったのですが…。

湯山:2010年前後よりも、男女の子ども化は急速に進んでいます。特に男性はより確信的に、面倒くささやパワーが要る男らしさから逃走している。あれから6年。40歳は30代気分のまま、20代はいつまでも高校生感覚。全体的に幼児化しています。特に男性はその傾向が強く表れている。なぜ面倒な女と付き合って結婚する必要があるのか。社会学者の古市憲寿さんが「セックスは汚い」という意の発言し炎上しましたが、パートナーをセックスで汚したくないと考える人は増えています。『四十路越え!』では40代女性が成熟して色気を増しモテると書いたのですが、若い男性は「尊敬する女性こそ汚したくない」と言い出す始末。性を汚らわしいと考える背景には、やはり、日本において現実的に性の手ほどきになっているアダルトビデオ(AV)の影響があるのではないかと。AVの大半に共通なモードは、男女が共通の立場で積極的にメイクラブするというよりも、攻める男性、受ける女性の高低差が顕著ですからね。

セックス=暴力だと苦悩する男たち

――今回の著書は、AV監督の二村ヒトシさんとの共著ですよね。

湯山:二村さんも仰っているのですが、AVは男性のセックスファンタジーを強固にしても、性の教科書にはなりえない。しかし今の20代30代は、性の目覚めでAVに触れている人が多いんです。先ほどもいいましたが、日本のポルノグラフィーの王道は、男性が女性を征服することが興奮のトリガーでしたから、AVも昔からそれに即した物語が根強い。アダルトサイトを見てもわかる通りSMが一大ジャンルで、陵辱ものも数多くリリースされています。頭で暴力を拒否しても、体は興奮してしまう男性たち。自分の興奮材料が女性蔑視や征服欲だと自覚すると、愛するパートナーとどうセックスしたらいいのか悩んでしまう。AV業界は非常にユーザー志向で、男性のニーズに細やかにマッチしているから、ドロドロした性欲はそこで処理すればいいだろうと思ってしまうんです。

――2015年に『男をこじらせる前に』(湯山玲子/KADOKAWA)、『男がつらいよ』(田中俊之/KADOKAWA)と、男の生きづらさも注目されました。

湯山:主力は男性ばかりであったかつての職場では、「いくら仕事ができても出世できないし、そもそも補助業務しか与えられない」女がいました。ということは男の下にはいつも女がいるので、男はその格差を安心材料にしていた。それが実力主義の世界になり、いつの間にか女たちが同等または上司にいるようになった。要するに女に上に立たれて、使われる存在である自分を肯定的に捉えられるか、という問題です。柔軟な男性は、すでに女性と共存する道を選択しています。一方、女性側は社会的地位が向上したわりに古典的な意識が根強く、いつまでも王子様とのロマンチックラブを待っている。『四十路越え!』では成熟した40代女性と20代男性の恋愛の可能性もありうると書いたけれど、実際には年下男を育てる強い女性は少ない。不倫でもいいから年上オヤジのほうがいい、私を引っ張ってもらいたい、という声をよく聞きます。高学歴で大企業にいる女性ほど、そういった、ロマンチックラブ&おじさま願望は強固ですね。ただ、男女どちらが権力をもったにせよ「恋愛をして何の得があるの?」という傾向は強まり、性欲はダークファンタジーとして経済的に処理をして、恋愛はプラトニックに楽しむものになるでしょう。「恋愛」を因数分解した末の、分散投資型の考え方です。

【後編】は明日6/28公開

取材・文=松田美保