愛と苦しみの中でもがき言葉を絞りだす! 最果タヒ新詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14


『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)

ブルーの装丁デザインが印象的な詩集。その帯に作詞家、松本隆氏のコメントがある。

「心の葉脈が透けて見えるのは、最果タヒの瞳から放射される光線のせいだ」と。

気鋭の才能を世に送り出してきた中原中也賞を受賞後、そのまばゆい感性が生み出す世界観は、詩に留まらず小説やSNSでも発表され、多くの反響を呼んでいる。

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最果タヒの最新詩集、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)は、孤独、喪失、憂鬱など、今を生きる人が抱える不安に寄り添い、やさしい言葉で吐き出すような作品だ。「詩」というのが遠いものではなく、近くにあって、肌感覚で自分に語りかける。その肌触りを確かめるように読むうちに、いつしか自分だけのものになっている心地よさに惹かれるのかもしれない。

最果タヒの詩の世界をいくつか紹介しよう。

「空白の詩」
他人の言葉は決して、私の正解にはならないと知っていて、
ひとり、夜を未読にする。
ふさいだあとの都会から、もれだしたものはなんですか。
分厚い雲の下で、渦のように愛と親切を交換して、
死んでいくことが人間の美学。
本書より抜粋引用

すべてを閉ざし空白にするため「未読」にしたくなる夜は誰にも訪れるのではないか。

「美術館」
大切な感情はすべて重たくて、沈めていく。
100パーセント、美しさのせいで泣きたい。
悲しみも寂しさも下水道に捨ててしまいたい。
本書より抜粋引用

美しさの前で余計なものはいらない。秘めた感情が涙で流されていく。

「黒色の詩」
好きだという言葉と軽蔑に、
大して変わらない反応を見せるぼくの心臓。
街の宝石はネオンでも星でもなく、
ねむれないのに無理に閉じたきみのまぶたの奥にある。
本書より抜粋引用

好きと軽蔑は隣り合わせ。生命力、エゴ、矛盾、夜の闇に黒色に放つものは…

「貝殻の詩」
どうしようもない、死ぬのも、くだらなく生きるのも、
それがきみの性質なんだからどうしようもないじゃないか。
星や草や、動物が、ぼくらとは違う鍛えられた細胞を
生きるためだけに燃やしていく。
孤独を語るとき、生命が腐ったにおいがするよ。
きみは海を見ていた。
静けさが唯一ひとをまともに見せるなら、
夕日の時間がずっとずっと続いてほしい。
きみの命も、永遠であってほしい。
本書より抜粋引用

深さや濃さを感じる言葉の中に祈りのような愛情が浮かんでくる。「死」「生」「永遠」とは…。心の軌跡を追いたくなるような一篇。

あとがきで著者は、

「理解を求めることはとてつもない暴力なのだと思っていた。
想像以上に他者は私を理解せず、
そして理解しないからこそ私は自由で、だからこそ、生きていける。」

と述べている。本書の作品たちのベースはここにあり、その自由こそが、現代のポエジー(詩情)と言われるゆえん でもあるのではないだろうか。43篇の詩の中に最果タヒが放射する光が見えるかもしれない。

文=藤本雪奈