「ポジティブな言葉が幸運を呼ぶ」「気にしなければうまくいく」…“ポジティブ信仰”の危険な罠
公開日:2016/7/6
「ポジティブシンキングが成功を導く」世に渦巻くこれらのメッセージの数々を“ポジティブ信仰”と呼び、妄信してしまうことに“待った”をかける人物がいる。『一流は知っている! ネガティブ思考力』(幻冬舎)の著者で心理学博士の榎本博明氏だ。
本書の内容をお伝えする前に、まずはセルフチェックをしてみよう。
1. なにをする際にも「失敗したらどうしよう」などと不安には思わない。
2. ネガティブな相談に共感できず「ポジティブに考えれば」と相手を責めてしまう。
3. 失敗したり競争で負けたりしても「後悔・反省」などはせず、忘れようと努める。
以上の項目に1つでもチェックの入る人はぜひ、本書を熟読してみてほしい。というのも、本書の指摘する、“ポジティブ信仰の危険な罠”に陥っている可能性があるからだ。本書はその罠がどういうものかを、心理学実験で得た知見を論拠にさまざまに紹介する内容だが、中でも著者が1章を割くほどに重視するのが「不安の効用」である。
本書の3章「不安だからうまくいく」の内容を少し紹介しよう。ポジティブ思考派はつい、「不安心理」をネガティブ要素として排除しがちだ。しかし著者はこの「不安」こそ、成功・成長のカギを握っていると指摘する。
例えば、試験や試合などの大一番の前にイメージトレーニングを行うとしたら、次にあげる3つから、あなたはどれを選ぶだろうか?
1. 完璧な動きや姿を頭の中でリハーサルして「勝利のイメージづくり」を行う。
2. 緊張しないように癒しの音楽などを聴きながら「心身のリラックス」を心がける。
3. どんなミスをしそうかを考え、ミスした場合のリカバリーを具体的にイメージする。
上記のうち1と2はポジティブ思考派、そして3がネガティブ思考派の代表的なイメージトレーニングだ。著者によれば、心理学者レノムとキャンターによるグループ実験の結果、いちばん効果的だったのは、3のミスをリカバーするトレーニング(コーピング・イマジナリーと呼ぶそう)だったと記し、こう解説する。
日頃からうまくいくかどうか不安を抱きがちな人の中には、その不安をうまく活かすことで成果を出しているタイプがいるのだ。不安ゆえに注意深く事に当たるため、勉強でも仕事でもうまくいく確率が高まっているのである。
こうした不安の効用などを著者は「ネガティブの持つポジティブパワー」と表現する。「悔しさをバネにする」もその力の代表だ。本書では心理実験以外にも、イチローや羽生結弦などトップアスリートたちなどのインタビュー記事を参照しながら、一流の人はみんなこの力をうまく活用していると指摘する。
しかし本書はポジティブ思考のすべてを否定しているのではない。その証左に本書には「ポジティブ思考の賢い取り入れ方」という章もある。要はバランスの問題なのである。
例えば、クリアがむずかしい課題にチャレンジするときは、まずモチベーションを上げる必要がある。その際に「どうせダメだ」というネガティブ思考はNG。「ダメ元でチャレンジしよう」くらいのポジティブ思考が積極果敢な心を生むため望ましい。そして次の行動計画では、「うまくいくさ」と無根拠に安心せずに、「失敗しないように慎重に計画を練ろう」というネガティブ思考の慎重さが有効になるのだ。
これまで何ごとにも不安になりがちで、ポジティブじゃない自分はダメなのかと思っていた人は、本書で大いに勇気づけられるだろう。そして、「自分はポジティブになることに夢中になりすぎ?」と思う人は、ぜひ本書で、心の落とし物・忘れ物を見つけてみてはいかがだろうか。
文=町田光