『自殺島』完結まで秒読み!マンガ家・森恒二「終わりたくない!」【Episode 3】

映画

更新日:2016/7/1

【Episode 1】『自殺島』森恒二「僕らの世代は、スター・ウォーズに“調教”されてるんです」
【Episode 2】『自殺島』森恒二が語った、 親友・三浦建太郎が映画館で激怒!? 「あれはホント怖かった(笑)。」

スター・ウォーズというエンターテイメントの洗礼

 僕はスター・ウォーズっ子で、どちらかといえばエンターテイメントの方が好きなんですけど、本来はちょっと暗い人間なんですよ。作品もストリートでのケンカを描いた『ホーリーランド』とか、テロリストが出てくる『デストロイ アンド レボリューション』みたいなのを描いてますし、『自殺島』(※1)はリアルに自殺者を追ってしまったら、闇に目を向けないといけなくなるつらい作品になってしまう。僕はマンガって「カンヌ国際映画祭」と「アカデミー賞」ならアカデミー賞を目指さないといけないんじゃないかな、と思ってるんです。カンヌみたいな、コアな人が好きになるというスタイルもあるけど、僕はみんなに読んでもらいたい、みんなに発信したいという気持ちがあるんです。『自殺島』がエンターテイメント作品というと語弊があるかもしれないですが、色んな人に読んでもらいたいし、面白く読んでもらいたい、というところでいえばエンターテイメントであると思うんです。もちろんテーマがテーマだけに、とても気を使って描いています。

 かといって僕が自殺者を止めるとか、未遂者に何か言うとか、彼らの闇の深さをわかっている、なんて軽々しくは言えない。だから僕は、生きることを選んでる人たちが「死にてぇな」って思ってしまったとき、生きてれば誰でも一回くらいはそういうことがあるじゃないですか、そういうまだディープな闇に取り込まれていないときに、できることをやっていこうよ、遠くの人たちじゃなくて目の前にいる人のことを考えようよ、ということを語った方がいいんじゃないかと思ったんです。そのためには「エンターテイメント」が必要なんです。それはスター・ウォーズというエンターテイメントの洗礼を受けた僕たちが作品を作る指針になってると思うんです。

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 『自殺島』は、あまりにも死にたいという人が多くて、どんどん自殺者が増えていく状況の中、実際に僕も死にたいと思ったことがあったり、身近に自殺した人がいたりして、何かできることがあったんじゃないか、それにはこれを描かないといけない……と衝き動かされて生まれた、とても思い入れのある作品なんです。ようやく最終回に辿り着けそうなところまできて、「きちんと生きていこうよ」というメッセージは描けたかなと思っています。もちろん最後まで描いて、ビシっと終わらせますよ!

 もうすぐ『自殺島』は終わり、ほぼほぼ秒読み段階ですね。僕はいつも最初に最終回を決めてから描くので、人気があるから描き続けるというスタイルは一切しないんです。だから終わるのがつらいんですよ! 連載中、キャラクターたちと何年も付き合うじゃないですか。その間ずっと彼らのことを考え続けるわけですよ。マンガ家さん全員そうだと思うんですけど、毎日彼らのことを考えて生きてるし、彼らに食べさせてもらってるわけです。だから離れたくないんですよ。できれば一生描いていたいと思うんです。なので「終わりたくない!」という“最終回うつ”が、今僕の中で始まっています(笑)。

物語を作るための喧々諤々

 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が公開される前に掲載されていた三浦くんのインタビュー、ヴィック・モローとか『宇宙からのメッセージ』とか「情報出てきたな~」って感じですね。ホント、こいつ変わらないなぁ。言ってることが高校生のときからずーっと一緒ですよ。もう読まなくてもわかる。だって僕、この話は300万回くらい聞いてますから!(笑) ちなみにインタビューにある、『ベルセルク』におけるライトセーバー的アイデアがガッツの持ってるデカい剣になったという話、これって僕も当事者なんですよ。

 大学生のときに『ベルセルク』のもとになる話を三浦くんが考えていて、どうも決め手に欠けると言ってたんです。それは3メートルくらいの怪物を仕留めるにはどうしたらいいか、ってことでした。相手が10メートルになるとちょっと想像できないけど、リアルに「これは勝てないかもしれない」と思うのがだいたい3メートルくらいだって言うんですよ。ヒグマよりもちょっと大きい相手をどう倒すか……まあお互いそんなことばっかり考えてたんですけど(笑)。

 それで三浦くんの周りでしょっちゅう戦ってる人が僕しかいないので、戦いアドバイザーみたいなこともしてたんです。ちなみに『ベルセルク』の“黄金時代”のガッツの体格や筋肉は、大学時代の僕がモデルなんですよ。三浦くんに脱がされて、ポーズ取って、写真撮られて、そのまま描いてましたから。それで「森ちゃん、10キロの剣だったら振れる?」と聞かれたので「10キロだったら楽勝で振るね」「20キロは?」「20キロだと重いけど、どうにかブンブンは振れる。30キロになったら、シュワルツネッガーくらいの体格が必要だ」とかいう訳わかんない架空の相談を受けてました(笑)。でもそれがあの大きな剣のアイデアになっていったんです。作品を作る人って、そうやってみんな考えるんですよ。そこにはやっぱりスター・ウォーズの影響があるんです。

 今は情報がスマホで一瞬で取り出せるから、友達とああでもないこうでもないって話をするのが少し薄くなってるような気がするんです。そう考えると僕らが学生の頃って、ある意味で豊かな時代だったといえるでしょうね。スター・ウォーズを見た後は家に泊まって、ずっと朝まで話してました。でもそういう会話は今の仕事に活きてるし、物語を作る基礎になってます。しかも運が良かったなと思うのは、三浦くんというすごい友達がいて、会話することがものすごいトレーニングになってたんですよ。これは『ヒカルの碁』(※2)で読んだんですけど、囲碁って対局が終わった後に検討(※3)をするんですよね。それが学びになって、スキルアップするそうなんですけど、まさにあれですよ。僕が高校生から大学生までに見た作品のほとんどすべてにおいて、三浦くんと検討ができたんです。半分ケンカになって「わかってないよ!」みたいな言い合いしたこともありましたけど(笑)。その中で一番議題に上ったのが、スター・ウォーズなんです。

 ホント、子どもの頃からの飴と鞭ですね。もうスター・ウォーズがなければ生きられない、なければ死ぬくらいの体になってしまった。僕ら世代のマンガ家さんで、スター・ウォーズの影響を受けてない人はいないと思いますし、僕らの世代はみんなスター・ウォーズに調教されてるんです(笑)。

※1 自殺島…森恒二によるマンガ作品。2008年より『ヤングアニマル』に連載中。自殺未遂常習者たちが「生きる義務」を放棄したという理由から政府によって日本近海の孤島に送り込まれ、日本に戻れなくなってしまう。当初絶望するが、やがて彼らは生きる理由を探し、時に対立しながら集団を形成、無法地帯でサバイバル生活を送る。

※2 ヒカルの碁…ほったゆみ原作、小畑健作画によるマンガ作品。1999~2003年『週刊少年ジャンプ』に連載。平安時代の天才棋士藤原佐為の霊に取り憑かれたことによって、神の一手を極めるために碁を打つことになる小学6年生の進藤ヒカルを主人公とした物語。アニメ化され、小中学生を中心に囲碁がブームとなった。

※ 検討…対局内容を棋士同士、または観戦者も参加して対局後に検討をすること。感想戦とも呼ばれ、囲碁だけでなく将棋やチェスなどでも行われる。形勢の良し悪しなど、自分が打った手を客観的に見直すことができるため、強くなるために欠かせないと言われる。

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)

 

<プロフィール>
森恒二(もり・こうじ)1966年東京都生まれ。日本大学藝術学部美術学科卒。広告業界でイラストレーターとして活躍後、マンガ家となる。2000年『ヤングアニマル』で『ホーリーランド』の連載を開始、テレビドラマ化されるなど人気を集める。08年より同誌上で『自殺島』を連載中。10年からは『週刊ヤングジャンプ』に『デストロイ アンド レボリューション』も連載中。

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