教科書だけではわからない! 浮世絵の名作に秘められた謎
更新日:2017/11/14
浮世絵というと歴史や美術の教科書では見たことがあっても、どんな背景で書かれたか、どんな深い意味が込められたかなどは知らないという人が多いではないだろうか。でも、東京オリンピックに向け増える外国人観光客。“Why?”と尋ねられて知らないことだらけでは日本人として少々恥ずかしい。そこで、浮世絵の見方がちょっと変わる本『世界が驚いたニッポンの芸術 浮世絵の謎』(福田智弘/実業之日本社)を紹介したい。
名作の中には隠されたメッセージがあった!
誰もが知っている「名作」と呼ばれる浮世絵の中には、作者のメッセージが込められているものが少なくない。例えば、歌川(安藤)広重の「東海道五十三次」の最初に出てくる「日本橋」の絵。左手手前には天秤棒を担いだ行商人がたくさん集まっていて、中央には橋の向こうから大名行列が近づいてくる様子が描かれている。多くの人で賑わう日本橋の様子がいきいきと描かれている傑作として名高い浮世絵の代表作だが、片や右の方を見ると2匹の犬のお尻だけしか描かれていない。近くに魚河岸のある日本橋だから、行商人の荷は魚や野菜に違いないのに、犬は商人たちの荷には目もくれず、右にある何かを食い入るように見ている。このことに注目して見ると、不思議な感じがしないだろうか?
実は、絵に描かれていない部分には「罪人のさらし場」があったのだ。そして、商人たちが集まって見ているものは、幕府からのお達しが書かれている高札。日本橋というと旅の出発点というイメージだが、人が多く集まるところだからこそ、見せしめのためのさらし場があり、多くの人に情報が伝わる高札場があったということがわかる。
見返り美人はなぜ振り返っているのか?
多くの人が知っている浮世絵の代表作に菱川師宣の「見返り美人図」がある。切手の図柄にもなっている肉筆画の傑作だが、美人画としてはかなり珍しい手法が採られている。普通、美人画というと前向きで斜め45度から見た顔を描いたものがほとんどなのだが、後ろ向きで少し振り向いたところを全身図として描いている。「見返り美人図」というタイトルだから当たり前だと思いがちだが、本当はとても珍しい構図なのだ。では、なぜ振り向きざまを描くことになったのか?
実は、モデルが当時のファッションリーダーだったからなのだ。菊と桜という着物の図柄だけでなく、吉弥結びという帯の結び方も、後ろに長く垂らした髪の結い方も当時の最先端をいくものだった。帯の結び方や髪の結い方を見せるためには後姿を描かなければならないが、美人の顔を描かないわけにはいかない。そこで苦肉の策が振り返りざまを描くという方法だったのだ。
浮世絵に描かれている大予言!
浮世絵の名作の中には、江戸時代に描かれながらも、平成の日本の様子が描かれているものがあるということをご存じだろうか? 例えば歌川国芳の「東都三ツ又の図」。隅田川の河口付近を描いた絵なのだが、実は不思議なものが描かれている。左の方に2つの塔のようなものあり、1つは「火の見やぐら」ということがわかるのだが、その右横に描かれている2倍以上の高さの塔が「東京スカイツリー」にそっくりなのだ。場所的にも合っているうえに、他の作者が同じ場所を描いた絵には火の見やぐらしか出てこない。他にも葛飾北斎が「卍老人」の名で描いた「地方測量之図」には、三陸海岸に東日本大震災の津波に負けずに残った「奇跡の一本松」の姿が見られる。これらは専門家も謎としている部分だから、見る機会があったらじっくり確認してみてはいかがだろうか?
浮世絵の世界に興味を持たせてくれる解説書
この本は、難しく思われがちな浮世絵の世界をいろいろな角度から見せてくれて、さまざまな驚きを与えてくれる。作品が描かれた歴史背景や作者の心理だけでなく、優れた技法や描き手の遊び心、クレーマー対策に苦慮している様子なども解説されているのが予想外だった。絵画に興味がない人でも読みやすいように構成が工夫されているから、一度手に取ってパラパラとめくってみると、何かおもしろい発見があるかもしれない。
文=大石みずき