長谷川博己「男と女では、こんなに差があるんですね」

あの人と本の話 and more

公開日:2016/7/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今月登場してくれたのは、今夏最大の注目作『シン・ゴジラ』に主演する長谷川博己さん。多彩な役柄を難なくこなす演技力の源は、人間理解を深めようとする読書姿勢にあるのかもしれない。近頃ひもといたという夏目漱石『道草』からは、何を読み取ったのだろうか。

「漱石文学を改めて読み返す時間を持てたことは、とてもよかったと思います」

夏目漱石没後100周年を記念して製作されたNHK土曜ドラマ『夏目漱石の妻』で漱石役を演じるにあたり読み込んだ漱石の小説からは、今も昔も変わらない人間関係の機微を強く感じられたという。

advertisement

「中でも印象に残ったのが、この『道草』と『坑夫』でした。特に『道草』は、漱石の実生活をモデルにしたものなので、余計に興味深く感じましたね。漱石役を作っていくうえで、一番ヒントになった作品でした」

 ドラマの原作になったのは、漱石の妻である鏡子の手記が原案になった『漱石の思い出』という作品。つまり、漱石の姿が、妻の視点から描かれているわけだが……。

「夫婦なのに、言っていることがもう全然違うんですよ。同じように生活していて、お互いを見ていても、男と女ではこれほど差があるのだと痛感しました。いろいろと深いです」

『道草』では、大学教師となって安定した収入を得るようになった健三という男に対し、絶縁した養父や、あまり付き合いのない姉兄、さらには妻の父までお金をせびりに来る様子が描かれる。

「健三の周囲にはいろんな人間が集まってきますが、みんなどこか人格的に偏っています。だからこそ、余計に健三はうんざりするわけですが、そういう血縁者ならではの面倒くささや人間関係の煩わしさって、今も全く変わらない。読めば、“健三の気持ちはよ~くわかる”という気分になるはずです。だからこそ、対人関係の悩みがある人には、特にお薦めしたいですね。きっと、いろんなヒントを見出すことができますよ」

(取材・文=門賀美央子 写真=富永智子)

長谷川博己

はせがわ・ひろき●1977年、東京都生まれ。2002年、初舞台『BENT』を経て、テレビドラマや映画などで多彩な役を演じる。2011年に日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近作に、映画『進撃の巨人』『劇場版 MOZU』『二重生活』などがある。ドラマ『夏目漱石の妻』(NHK)は9月下旬より放映予定。
ヘアメイク=宮田靖士(VaSO) スタイリング=熊谷隆志(LAKE TAJO)
衣装協力=ジャケット4万円、シャツ2万4000円、パンツ3万円(すべてアナトミカ/アナトミカ 東京 電話03-5823-6186)※いずれも税別

 

『道草』書影

紙『道草』

夏目漱石 集英社文庫 440円(税別)

海外留学から帰国した健三は、大学教師として働く忙しい毎日を過ごしていたが、縁を切ったはずの養父・島田や兄姉、さらには妻の父らが押しかけてきては、金銭的援助を求めてくる日々に辟易していた。妻ともうまくいかず、健三の憂鬱さは増すばかり。明治という新時代に生きる近代人の苦悩を描いた長編小説。

※長谷川博己さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ8月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『シン・ゴジラ』

脚本・総監督/庵野秀明 監督・特技監督/樋口真嗣 出演/長谷川博己、竹野内 豊、石原さとみ 配給/東宝 7月29日(金)より全国東宝系にて公開
●現代日本に初めてゴジラが現れた時、日本人はどう立ち向かうのか?『エヴァンゲリオン』の庵野秀明総指揮で現代に蘇ったゴジラ映画の新作。
(c)2016 TOHO CO.,LTD.