「冴えない少女」から「遊女」に! 江戸時代、男装の麗人として名をはせた「勝山太夫」とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14

女性でありながら、男性の格好をした美人を、男装の麗人という。宝塚の男役を思い浮かべてもらえれば分かりやすいだろう。そんな男装の麗人であり、実在した遊女として名高い勝山太夫の半生を描いた時代小説『勝山太夫、ごろうぜよ』(車浮代/白泉社)が7月5日に発売された。

主人公のお勝(後の勝山)は、江戸の前期に「紀伊国屋」の湯女(ゆな)として働く田舎臭い、冴えない少女。湯女とは、風呂屋で働く女性のことだ。当時の風呂屋は蒸し風呂が主流で、お客は蒸し部屋で肌をふやかせ、その後、洗い場で身体の汚れを落としていた。湯女は洗髪や垢取りなど、入浴の手伝いをした女性で、夜には娼婦として身体を売ることもあった。

湯女としての仕事をうまくこなせないお勝に、目をつけたのは細工師の銀次(ぎんじ)という男。彼はお勝が敬愛する姐さん、市野(いちの)という湯女の恋人だった。

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銀次は大店の次男だったが、郭(くるわ)遊びが過ぎ、父親に勘当されていた。野心もあり、粋な銀次は「父親を見返してやるため、世間を驚かせたい」とお勝を男装の麗人に仕立てあげる。

銀次はお勝に、読み書き、小唄、三味線、踊り、様々な教養を身に着けさせ、自信のなかった彼女を「女も惚れる粋な女」に大変身させた。

お勝(勝山と名を変える)は、大酒飲みのザルであることを武器に、「酒競べをして勝った相手にしか身体を許さない」という売りで一躍大人気に。町を歩けば女性が見惚れ、勝山の着ていたもの、身に着けていたものが飛ぶように売れはじめる。現代なら、さながらファッションリーダーのような存在にまでのぼりつめたのだ。

だが、勝山には誰にも言えない秘密があった。

自分の命の恩人である先輩湯女の市野の恋人、銀次と身体を重ねる関係であること。

勝山は市野のことを心から慕っていた。市野を裏切っているという罪悪感を抱えながらも、銀次との関係を続けていることに苦悩し、遂には、日ごろの大酒飲みがたたり、身体を壊してしまう。それでも、勝山は市野のため、風呂屋のために無理をし続けるが、ついに銀次との関係が市野に知られてしまい……。

本作は、勝山が身分の低い湯女から、吉原の太夫になるところまでを描いている。垢抜けない少女が華麗に大変身する様は、シンデレラストーリーにも思え、読んでいて小気味よい。だが、勝山について回るのは、困難なことばかり。粋なファッションリーダーという輝かしい表舞台の裏にある、「お勝」という少女の葛藤に読者は共感し、それでも歩み続ける彼女の強さに感銘を受けるのだろう。

江戸時代の光と闇、陰と陽を感じながら、小粋に読みたい一冊だ。

文=雨野裾