おにぎり1億個分以上の食品が毎日捨てられている!? まだ食べられる食品が大量に廃棄される日本――食品廃棄の実態

社会

公開日:2016/7/8


『産廃Gメンが見た 食品廃棄の裏側』(石渡正佳/日経BP社)

 年明け早々に衝撃が走った廃棄カツの不正転売事件。廃棄されたはずのカツが、複数のスーパーなどで売られていることが発覚した。産廃業者が横流ししていたもので、別の業者を介して再度市場で販売されていたのだ。捨てるはずの商品(しかも消費者の口に入る食べ物!)を売っていたという悪質さに怒りを抱いた人は少なくないと思う。

 しかし、食品廃棄について、一般的にどのくらい知られているだろうか? 日本では、食べられるのに捨てられる「食品ロス」が年間500万~800万トンにも上ると言われている。あまりに数字が大きくてイメージするのが難しいかもしれないが、日本人1人が毎日捨てる量に換算すると、“おにぎり1~2個”に匹敵。まだ食べられるおにぎりを毎日捨てるとなったら、罪悪感は大きいだろう。さらに、不正が行われれば自身の健康に関わる可能性があるにもかかわらず、その仕組みなどは、あまり知られていないのではないだろうか? 廃棄された商品が店頭に並ぶなんて考えたこともないし、正直なところ、あまり興味を持って考えたことがなかった、という人も少なくないのではないかと思う。

 そこで、ご紹介したいのが『産廃Gメンが見た 食品廃棄の裏側』(石渡正佳/日経BP社)だ。

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 著者は、千葉県の職員として1996年から産業廃棄物行政に携わり、2001年からは産廃の不法投棄現場を監視し、発見した場合は投棄者に撤去させるまでのことを担当する、いわゆる産廃Gメンとなった石渡正佳氏。不法投棄多発地帯で調査や指導を行った経験を交えながら、食品廃棄の裏側や国の対策、法律の死角などについて、徹底的に斬り込んでいる。

食品リサイクル法と肥料化

 まず、食品廃棄を考える際に重要なのが「食品リサイクル法」。石渡氏が産廃Gメンとなった2001年に施行されており、食品のロスを抑えるとともに資源として再利用することを推進する法律だ。

 資源としての再利用の主な手段として多くの業者が行ってきたのが肥料化。コスト面などが理由のようだが、石渡氏はここで問題点を指摘している。肥料化のプロセスが完了した状態を、法律が明確に定義していない点だ。これにより、肥料の熟成期間を短縮、未成熟肥料を生産しているにも関わらず肥料化が完了したことにして、施設の受け入れ能力を水増しすることが可能になってしまう。完熟に8週間を要する肥料を4週間で出荷すれば、受け入れ能力は2倍となるというわけだ。そして、生産された未成熟の肥料は、最終的に不法投棄されることになると言うのだ。

 法律が施行された当時、石渡氏が遭遇した衝撃的なエピソードがある。それは、肥料化施設の社長が発した一言。

「うちは日本一いい会社ですよ。だって不法投棄は半分しかしていないから。よそは100%でしょう」

 石渡氏によれば、当時リサイクルされたことになっている食品の大半が、実際には農地に偽装処分されていたそう。つまり、適切に肥料化されていない物質が、土壌汚染を広げている可能性があるということだ。

3分の1ルール

 食品廃棄物流出の背景として指摘されているのが、業界の慣行である「3分の1ルール」だ。加工食品に対して法律が規定しているのは賞味期限と消費期限のみ。しかし、メーカーや流通の在庫は期限の3分の1を過ぎると出荷しない、というしきたりがあるそうだ。店頭では、期限の3分の2を過ぎると棚から撤去され、消費者は期限が3分の1以上残っている商品を購入するようになっている。

 このルールに従うと、場合によっては、賞味期限まで何ヶ月も残っている商品が廃棄されることになり、石渡氏も初めてその状況を見た時は驚いたそう。そして、この状況を毎日のように見ていたら、「売っても大丈夫じゃないか?」と思ってしまってもおかしくないと述べている。恐らく、元は消費者に対して安全な商品を提供するために作られたルールだと思うが、結果として大量の廃棄物を生み、不正を誘発しかねない状況を作ってしまっているようだ。

 どんな法律でも抜け道はあるし、不正は後を絶たない。巧みに偽装されて、消費者に気付かれないケースもあることを考えれば、発覚した事件は、ほんの一部だろう。しかし、食品廃棄は、食の安全だけではなく、地球環境にも影響を及ぼしかねない問題。だからこそ、さらなる法整備が求められるとともに、消費者側も現状を認識し、問題意識を持つことが大切なのではないだろうか。

文=松澤友子