歌舞伎町の花道通りに1000人!暴力団員とつながっている「客引き」の実態とは?
公開日:2016/7/14
2020年に東京オリンピックが開かれる。このため、日本中で様々なオリンピック関連の取り組みが行われている。その1つとして、新宿歌舞伎町を浄化しようとする取り組みをご存じだろうか。私はテレビを眺めて知ることができた。どうやら、あの無法地帯がまさに浄化されるらしい…が、私はこれっぽっちも期待していない。歌舞伎町でぼったくるお兄さんもお金に無心するお姉さんも2020年どころか、世代を超えて君臨し続けるに違いない。
『歌舞伎町はなぜ〈ぼったくり〉がなくならないのか』(武岡 暢/イースト・プレス)は、「法律の分野」「歌舞伎町の歴史」「歌舞伎町という街の特徴」の3つの観点から非常に専門的かつ論理的に、なぜ歌舞伎町からぼったくりがなくならないのか解説している。また、著者である武岡氏は、フリーの客引きのインタビューに成功し、その実態を聞き出している。客引きといえば、ぼったくりの手先みたいなやつらだ。その客引きのインタビューはずいぶん生々しい内容だった。フリーの客引きY氏は、元暴力団員の40代男性だ。暴力団員として何度か収監され、やがて組を脱退し 、客引きへと転職したという。武岡氏のリサーチで得た情報とそのインタビューをもと に、客引きの実態を見ていこう。
客引きの実態 (1)縄張り
歌舞伎町の花道通りでは、全長600メートルほどの路上に約1000人の客引きがいるという。フリーの客引きは通常3人から10人程度のグループで活動しており、グループごとに暴力団に「みかじめ料」を払っているとか。そして暴力団から割り当てられた活動範囲を縄張りとしているらしい。その縄張りの範囲は5メートルから10メートル。縄張りを出て客引き行為をすれば、暴力団員や別の客引きから注意や暴力や金銭的な制裁を受けるという。武岡氏が現地調査中に面識を得た外国人客引きから聞いた話によると、その外国人客引きがある日うっかり縄張りを出て客引き行為をしてしまい、別の客引きに囲まれて暴力を振るわれたとか。「あいつらおかしいよ」と外国人客引きは武岡氏に訴えた。
客引きの実態 (2)報酬
客引きは、それぞれのお店に案内した際に得られる報酬を店ごとに取り決めており、定額制と歩合制に分かれるという。定額制の例はこんな感じだ。「あるヘルスは客の支払いから1万円を店側が取り、残りを客引きが得る」。歩合制の例はこんな感じだ。「あるキャバクラは客が支払った料金の40%を客引きに払う」。読者のみなさんが客引きに対してどのようなイメージを持っているか分からないが、思ったより客引きは報酬をもらっているようだ。
客引きの実態 (3)Y氏
他にも客引きの実態が明らかにされているが、私が一番印象に残ったのが、この40代フリーの客引きY氏のインタビューだ。Y氏は、暴力団員時代の3回目の服役中に「俺はまじめにやろう」と考えたらしい。そして出所後、組を脱退 。ラーメン屋の面接へ10軒以上通ったという。前科は隠したものの、年齢と不況により、全て不採用だった。生活に見通しが立たなくなったので「もう必要悪だ」と思い、客引きを始めたらしい。客引きになってから一度検挙されたという。以下がその客引きのインタビューだ。
一回捕まりました。30万円(条例違反による罰金を払ったという意味)。もう前科8犯。刑務所3回ですけど。私はもう悪さいっぱいしましたけど、これ(客引き)はもう必要悪じゃないですか。俺はまじめにやろうと思ったけど、どこも就職ないんだよ、キャッチやっているんだよと。
もちろん、全ての客引きがこのような人物ばかりではないだろう。しかし、客引きという職業は、ある種の受け皿であることも間違いない。彼はぼったくりをせずに、お客さんに対して誠実に客引きをしながら、100万円以上の月収があるという。私は何とも言えない気持ちになった。
本書は、歌舞伎町でぼったくりが生まれる要因について、かなり深く切り込んでいる。法的な問題についても解説しており、ぼったくりを法律で規制するのは、現状では限界があるようだ。これを読む限り、当面は歌舞伎町からぼったくりがなくなることはないと思われる。2020年まであと4年を切った。その頃、東京オリンピックは、歌舞伎町は、どうなっているだろうか。
文=いのうえゆきひろ