BL妄想がとまらない腐女子は変態? BLはストレス緩和に役立つ? 心理学者が解き明かす『腐女子の心理学』
更新日:2017/11/14
「腐女子研究の本を書いています」。聖徳大学心理学科で教鞭をとる山岡重行さんは、学会に参加して研究者仲間にそう話すと、口々に「まともな先行研究がないから早く出版してくれ」と急かされたそうだ。BL好きの女性が「腐女子」と言われてひさしいが、その詳しい生態は謎に包まれているのだ。
『腐女子の心理学 彼女たちはなぜBL(男性同性愛)を好むのか?』(山岡重行/福村出版)は、そんな研究者待望の研究書である。腐女子といえば、「腐女子であることを隠そうとする」「現実でも男性同士の恋愛を妄想してしまう」「無生物でも擬人化してカップリングする」など、様々なイメージや偏見で語られているが、どこまでが真実なのか。
現役大学生2000人以上を対象に調査を行い、BLを好む腐女子と、アニメやゲームといったオタク趣味を持たない一般人との比較結果を明らかにしている。本書から垣間見える腐女子の実態を探ってみる。
腐女子はなぜBL趣味を秘密にするか?
調査から腐女子は排他的な傾向が強く、BL趣味の仲間と閉鎖的なコミュニティを作りあげる特徴が認められた。しかし社会性が低いわけではなく、コミュニケーション能力は一般人と変わらず、「他人への気遣い」能力では一般人よりも高かったという。
ときにBL作品は性愛表現を含むことがある。性的な趣味や娯楽は公にせず、こっそりと楽しむのがマナー。自分が腐女子であることを隠そうとするのは、異なる性的価値観を持つ人々との摩擦を避け、友好的な関係を築こうとするあたりまえの行動ともとれるのだ。
腐女子は現実の恋愛に興味がない?
恋愛意識についても腐女子と一般人とで差はなかったという。しかし腐女子は人並みの恋愛欲求はあるが、一般人と比べて「自分の趣味に熱中したいから恋人は欲しくない」との回答が多かった。
このことは調査に協力した大学生のうち、共学校よりも女子大学に腐女子率が高かったことも関係している。女子大学であれば当然ながら男性と接する機会に乏しく、外部で恋人を作るためには特別なアクションが必要になる。必然的に恋愛に縁遠くなり、趣味に傾倒しやすくなると推測できるという。腐女子の恋愛観は環境も影響しているらしい。
腐女子はBLのどこに惹かれるか?
まず調査にあたって古今東西のラブストーリーから「幸せな恋愛」「運命の出会い」「相手への献身」などの物語要素を抽出し、腐女子がどんな恋愛に惹かれるのかを調べた。
その結果、腐女子が最も惹かれるのは「命がけの愛」だった。主人公が愛のために自分の命を犠牲にすることも厭わない姿に強い魅力を感じるという。そして異性愛者同士、または同性愛者と異性愛者の間に禁断の愛が生まれ、障害や葛藤を乗り越えていくところに感動を見出す。異性愛者が世の多くの女性よりも男性を選ぶという展開にノーマルな恋愛よりも強い純愛を感じているのかもしれない。
腐女子はなぜ現実でBL妄想するのか?
腐女子は好きな作品のストーリーや世界観よりもキャラクター間の「関係性への萌え」に興奮することがわかった。また「現実でもBL妄想してしまう」と回答したのは、腐女子のごく一部であったが、ではなぜ好きな作品ではない現実世界でもカップリング妄想をしてしまうのか。
人間は誰しもストレスを受けたとき、音楽を聞いたり、スポーツで汗を流したり、趣味に熱中することで気分をリフレッシュしている。同様に腐女子も現実にBL趣味を持ち込むことでストレスを緩和しているのではないかと考察している。現実でのカップリング妄想は、まったく異常なことではないのかもしれない。
研究のまとめでは、腐女子の変態性と幸福感について語られている。「自分は変態なところがある」と回答した割合は、一般人が15.5%に対し、腐女子は69.5%と極端に高かった。腐女子は自分をアブノーマルな変態だと認めているのにもかかわらず、「幸福感」「生き甲斐」を感じている数値は一般人より高かったのである。
腐女子であることで生活に支障が出たり、不遇をかこっていたりするのであれば改善の必要があるかもしれないが、腐女子の大半は趣味の妄想と現実の人間関係の折り合いをつけている。幸福で生き甲斐を得ている腐女子と、現状に不安や不満を抱いている一般人ではどちらが正常なのか、もはやわからない。むしろ改善や理解が必要なのは腐女子ではない私たち一般人なのかもしれない。
文=愛咲優詩