米軍が“男女平等”になった、本当の理由

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更新日:2016/7/14

Cover Photograph: U.S. Army Photo by SSG. Russell Lee Klika JFKSWCSPAO

 中東地域での戦闘が続く米軍内で、今年に入って大きな“変化”が注目されています。それは、「最前線に立つ女性兵士」というキーワード。米軍では、これまで女性の兵士が直接戦闘を行う地域に配属されることは禁止されていました。しかし近年、この規定が撤廃され、米軍きってのエリート集団の特殊部隊の試験に、女性が合格したとのニュースが報道されるなど、「戦う女性兵士」が大きな話題となっています。

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 これらのニュースは一見、いわゆる“アメリカの男女平等”のニュースに見えますが、実は、米軍の新たな“対ゲリラ作戦”が大きな背景にあるのです。

 『アシュリーの戦争 米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録』(ゲイル・スマク・レモン、新田享子/KADOKAWA)は、「戦う女性兵士」のルーツともいえる米軍初の女性部隊の活躍が描かれ、アメリカで大反響が巻き起こりました。

本稿では、本書の内容を紐解きながら、単純な“男女平等”だけでは語れない、「女性兵士のニーズ」について紹介します。

 

“女性兵士”は、対ゲリラ作戦のために生まれた!

 米軍史上初めて女性が最前線に立ったのは、2011年のアフガニスタンまでさかのぼります。

 当時、アフガニスタンの辺境地域では、米軍特殊部隊と、タリバン残党のゲリラとの戦いが繰り広げられていました。テロを起こす可能性のある武装ゲリラを拘束し、治安を安定化させるのが任務でしたが、民家に潜んだゲリラの銃撃や、顔まで覆うブルカを着用した女性に変装したテロリストの自爆攻撃などを受け、連日の犠牲者を出していました。

 こうした攻撃を防げなかった最大の理由は、男性が女性に話しかけることをタブーとする、アフガニスタンの特殊な文化背景にありました。男性だけの米軍特殊部隊では、アフガニスタン人の女性にゲリラ情報を聞くことも、その女性が爆弾を所持していないかチェックすることもできなかったのです。

 これを強行すれば、ゲリラではない男性住民からの大きな反発を招き、さらに地域が混乱してしまうため、アフガン人女性(に見える人物)には、手を出すことができなかったのです。

 そこで白羽の矢が立ったのが、「特殊部隊の代わりに女性を尋問する、女性兵士の登用」だったのです。

 米軍はこの部隊を“Cultural Support Team(文化支援部隊)”、略してCSTと命名。戦闘地域に住む女性たちからゲリラ情報を収集し、特殊部隊の作戦を支援する、女性だけの部隊が募集されたのです。

 

米軍最強の部隊を支えた、女性兵士の任務とは

 この地域での特殊部隊の任務は、下記のような流れで進行します。

1 深夜にゲリラの潜む辺境集落の数十キロ手前まで、ヘリで降下
2 森や山などの道なき道を、ゲリラに気づかれないよう数時間かけて行軍(装備は20kgを超える)
3 ゲリラに悟られずに集落に到着し、ターゲットのゲリラを探し出し、拘束もしくは撃退する
4 作戦終了後、ヘリで降下したポイントまで戻り、ヘリで帰還する

 彼女たちの使命は、3の段階で、現地の女性たちから情報を収集することです。とはいっても、1~2、そして4をスキップすることはできません。

 つまり、米軍選りすぐりの特殊部隊と同じスピードで、数十キロの険しい道を、同じ装備を抱えたまま歩き続ける体力を持った女性でなくては、CSTに入ることは許されませんでした。

 CSTの結成に当たっては、米軍中から選りすぐりの女性たちが集められ、第一期は25名だけ選抜されたと言います。

 CSTは、あくまで「情報収集」と「戦闘支援」が主目的だったため、当時の米軍の規則からすると「ギリギリセーフ」という立ち位置の、賛否両論の部隊でした。

 しかし、アフガニスタン地域に彼女たちが降り立つと、彼女たちの活躍が始まります。

 タリバン残党のゲリラたちは、米軍に追われていることを察知すると、武装したまま村や民家に押し入り、米軍から身を隠します。CSTは、基本的に特殊部隊の一部隊に一人随行し、村や民家の住人女性と話しながら、無線で特殊部隊と情報を共有するのです。

 彼女たちの活躍で、「人口のもう半分」へのアクセス手段を得た特殊部隊は、より用意に作戦を成功させることができるようになり、その後もCSTは存続。CSTからは、勲章を授与される隊員も現れるなど、彼女たちの活躍は特殊部隊の中でも有名になりました。

 

米軍の歴史に名を刻んだ、最初の女性たち

 特殊部隊と方を並べる女性というと、ほとんど男性のような女性を想像するのではないでしょうか?

 彼女たちの多くは、確かに一般の男性兵士以上のスタミナを持ち、敵兵士と銃撃戦をすることを人生の目標として米軍に入隊していました。しかし、規則により戦場に立つことを許されず、射撃や体力レベルは充分なのに、人事の仕事やアメリカ国内の治安維持任務などに配置されていました。

 そんな彼女たちにとって、花形の米軍特殊部隊と共に作戦に加われるというのは、千載一遇のチャンスだったと言えます。

 『アシュリーの戦争』の主人公、アシュリー・ホワイト少尉は、新婚ホヤホヤの州兵(正規軍ではない予備兵)でした。彼女は、女性というだけで最前線に立つことがないという自分の立場に疑問を持ち、CSTプログラムに参加することを決意し、見事合格。たった数ヶ月の訓練を受けた後、すぐにアフガニスタンへ配属されました。

 彼女は、兵士としては珍しくおとなしいタイプの女性で、「ディズニーランドのグリーター」などと呼ばれる、おっとりとした若い女性でした。アフガニスタンの基地では、アメリカから取り寄せたブレッドメーカーで、出来立てのパンを同僚に配っていたという、女子力高めなエピソードも登場します。

 「米軍最初の女性兵士」はそんな、1年前までは自分たちが戦場に立てるとは想像もしなかった、ある意味で“普通の女性たち”が先駆けとなったのです。

 米陸軍では今年4月、女性22人を歩兵部隊および機甲部隊の仕官に始めて任命することを公表しました。

 近年の“米軍内の男女平等”とは、こうした中東地域での血なまぐさい歴史と、自己実現のために人生を賭してアフガニスタンの地を踏んだ女性たちの勇気によって、やっと実現したのだと言えるかもしれません。

 

アシュリーの戦争 米軍特殊部隊を最前線で支えた、知られざる「女性部隊」の記録

ゲイル・スマク・レモン、新田享子 KADOKAWA

2011年8月、アフガニスタン―アシュリー・ホワイト少尉とそのチームメイトたちは、アフガニスタンの戦地に降り立った。彼女たちのミッションは、男性が話すことが許されないアフガン人女性たちに接触し、ゲリラの情報を入手することだった―。混迷する戦争の中で誕生した、米軍初の“文化支援部隊”の奮闘が明らかになる!