マツコ・デラックスのエッセイが文庫化! 過去の爆笑エピソードやさまよい続ける心について赤裸々に語る

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公開日:2016/7/13


『デラックスじゃない(双葉文庫)』(マツコ・デラックス/双葉社)

 「住んでいるマンションの1階のコンビニで、懐かしいアイスを見つけて、あるもの全てを買い占めた」。このエピソードが誰のものか、ピンと来た方もいるのではないだろうか? いまや、その顔をテレビで見ない日がないと言っても過言ではない、マツコ・デラックスだ。マツコの所属する事務所のホームページをチェックしてみたところ、日曜日と金曜日を除き、毎日レギュラー番組を持っている。

 気づけばお茶の間の人気者となっていたマツコ。世の中を俯瞰するような視点で、思ったことをズバズバ言う姿が印象的だ。しかし、当の本人によれば「心はさ迷い続けている」そう。そんなマツコの本音や、人気者となった今思うことが語られているのが、『デラックスじゃない(双葉文庫)』(マツコ・デラックス/双葉社)だ。

 本書は語り起こし(口述の内容を文字にしたもの)であり、マツコの口調がそのまま反映されている。そのため、読んでいると、本当にマツコと話しているような気分になる。しかし、テレビで受ける印象とは少し違う。はっきりとした物言いは変わらないのだが、彼女の優しさが伝わってくるのだ。

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 その中で、思わず爆笑してしまうようなエピソードがあった。「編集者マツコの全力疾走」だ。本人曰く、「大人になってから、1回だけ全力疾走した」時のことだそう。場所は羽田空港。1990年代後半、マツコがゲイ向け総合情報誌の編集者をやっていた時のことだ。

 取材で高知へ行く日に寝坊してしまい、電車で空港に向かったマツコ。京急の改札を出た時間が飛行機の離陸予定時間で…待っていたグラウンドホステスは「鬼の形相」だったらしい。そして、冷たい口調で「走ってください」と言われ、その後も「走れ!!」「走れ!!」と急かされたのだとか。あのマツコが、怒られながら必死に空港を疾走する様子を想像したら、電車で読んでいたのに思わず吹き出してしまった。全力疾走の甲斐あって、無事飛行機には乗れたとのことだが、乗客からの冷たい視線に居たたまれなかったそうだ。

 華やかなテレビの世界で生きる一方で、マツコの私生活は地味で自堕落。そして、孤独。今世紀に入ってから、恋人がいたこともない。付き合いで食事に行くのも嫌い。そんなマツコに、最近ちょっとした心境の変化があった。嫌いだった動物を好きになったのだ。本人はこれが「愛されたい願望」によるもので、生身の人間からは得られないと悟ったためではないかと分析している。

 動物好きな筆者としては、「どうせ出不精なら、いっそのこと犬や猫と一緒に暮らせばいいのに」と思うのだが、マツコには踏み切れない理由がある。“オカマ”である自分には、孤独に生きていくことが課せられているのではないか、と考えてしまうそうなのだ。そして、例えば「このネコ、可愛いな」と思うたびに、天の声がささやくらしい。しかし、もし捨て猫がいたら見過ごす自信はないようなので、マツコが動物と暮らす日も遠くはないかもしれない。

 本書からは、マツコの優しくて真面目な性格が伝わってくる。確かに、バラエティ番組などで思ったことを率直に話している時も、誰かを傷つけるような発言はしていないし、褒めるべきことは素直に褒める。だからこそ、これほどの人気が出たのだろう。しかし、視聴者に笑いを提供してくれる一方で、私生活が寂しそうなのは、少し気になるところ。新しい趣味や恋人、動物など、生活に潤いをもたらしてくれるものが見つかるように応援したい。そして、これからもお茶の間にマツコ節を届けてほしい。

 

文=松澤友子