20年後の自分のセックスを想像できますか? フランスに学ぶ、シニア世代のセックス

恋愛・結婚

公開日:2016/7/15

 超高齢化社会だ。20年後は日本の人口の3人にひとりが高齢者という時代になるといわれている。介護、社会保障制度の維持、労働力人口の減少など、今後さまざまな問題が深刻化していくことが確実視される中で、公にはほとんど明らかにされない問題がある。それは、シニアの性だ。気力・体力ともに衰えていくのを自覚しながら、自らの性と正面から向き合うことは容易ではないかもしれない。数十年後の自分は誰かを愛し、愛されているのか、そしてそこに、セックスという行為は存在するのだろうか。

 人は誰でも等しく年をとる。しかし、どんなふうに年を重ねるかは千差万別だ。それを性愛という切り口でとらえ、フランスの一般人から有名女優まで60歳以降の男女へのインタビューを通して、奔放でありのままのシニアの愛の形を著したのが『セックス・アンド・ザ・シックスティーズ』(マリー・ド・エヌゼル:著、小原龍彦:訳/エクスナレッジ)だ。

 日本初上陸の本書は、2015年に母国フランスで出版され、話題となった。性に対する過去の幻想を捨てきれずにいる人、“第二の思春期”に翻弄される人、セックスに飽きた人、自慰行為で快楽に浸る人など、インタビューを受けた31人それぞれがエロスの旅にさまよっている。作家であるとともに心理学者・心理療法士としての顔を持つ著者は、1986年に当時のフランス大統領ミッテランのすすめで緩和ケアチームに参加したことをきっかけに、幸福な老いについて考えを深めるようになった。

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 著者自身も“百聞は一見に如かず”との思いで“タントラ”と呼ばれる性的ヨガの講習会に体当たりで飛び込む。「性の新たな領域の発見に出発」しようとしている人たちとともに官能的な体験をし、体も心も解き放ち裸になる、きわどくエロティックな姿が描かれている。

恋活サイトでパートナー探し

 いつかは白馬に乗った理想の王子様が迎えに来て…そんな神話を信じて恋活サイトに自身の“理想的な”プロフィールをアップするフランスのシニアたち。写真は10年前のものを使い、年齢は10歳ほどサバを読む。インスピレーションを感じた男女がメッセージを交換し、ひと晩のアバンチュールに興じたり、道ならぬ恋に身を焦がしてみたり…出会いの数だけストーリーがあるが、大切なのはいかにパートナーと親密になれる能力を高めていけるかということだ。現れては消えてゆくパートナーとの出会いの向こう側には、心の整理の仕方が関わっているようだ。

「会話することが私たちのセックスなの」

「愛されている女性は美しいものよ。愛されているとモテるのね」

 そう言ってはばからないのは60歳を超えた女優マーシャ・メリル。彼女は82歳の男性と恋に落ちた。フランスの有名作曲家ミシェル・ルグランだ。出会った当時既婚者だったふたりは、40年ぶりの再会で互いの存在に運命を感じ2014年に結婚する。

「本当の悦びは、60歳を過ぎないと見つからないのよ」

 マーシャとミシェルのセックスは、ふたりで会話することから始まる。オーガズムの回数が増えたと語る彼女は、肉体の快楽を超越した霊的エロティックを体感しているという。

 60歳以降の性生活を充実させるためには“自己愛革命”が不可欠だ。肌に張りがあった数十年前を懐かしんでみても、何も始まらない。ありのままの自分を受け入れ、セックスと慈しみの表現を両立させること、それが年齢を重ねた男女にしか成し得ない成熟した性愛の形なのだ。鏡に映った顔のしわの数を数えるよりも、もっとやらなければならないことがきっとあるに違いない。

「愛の悦びから加齢によってなにかが失われるわけではない。むしろその逆だ」

 本書を締めくくる著者の言葉は、希望の光に満ちている。

文=銀 璃子