ヴィレッジヴァンガード通いの日々、古本屋で出会った運命の作家。現役アイドルが語る人生を変えた読書【ちゃんもも◎インタビュー後編】

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公開日:2016/7/21

壮絶な過去を乗り越え、異色のアイドルとして活躍するちゃんもも◎さん。ツラいことばかりが立て続けに起こった10代の日々、傍らにあったのは本だった。本の中に綴られた言葉が、彼女を支えた。インタビュー後編では、ちゃんもも◎さんの読書遍歴を追いかけていこう。

金髪ギャルでも文学を読む、というスタイル

ちゃんもも◎さんが読書に目覚めたきっかけ。それは意外な理由からだった。

「高校生の頃の私は金髪で、ギャルが多い学校に通ってたんです。だからといって、見た目で判断されたくなかった。ギャルみたいな格好はしているけれど、私の趣味はこれだ!と言えるような自分でいたいと思ってました。そんな中で読書という趣味はまさに自分の理想とするスタイルだったんです。最初の頃は、みうらじゅんさんや辛酸なめ子さんの本ばかり読んでいて、文学には触れてなかったんですけど」

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そんなちゃんもも◎さんが、初めて文学に触れた場所が「ヴィレッジヴァンガード」。

「ヴィレヴァンが大好きで、いつもそこで本を買ってたんです。で、その時も面白い本を探しに行ったんですけど、たまたま夢野久作さんの『ドグラ・マグラ』のポップが目に入ったんですよ。『読むと一度は精神異常をきたすと言われている、日本最大の奇書』っていうことが謳われていて。だけど、あまりにも表紙がキツくて、さすがに当時は買う勇気が出なかったんです。その代わりに、隣に並んでいた『少女地獄』を買ってみたんですけど、それがあまりにも面白くて、そこから文学にハマっていきました」

数ある小説の中でもひときわハードな夢野文学を、夢中で読んだというちゃんもも◎さん。一体なにが彼女の琴線に触れたのだろうか。

「運命的な出会いだったんだと思います。『少女地獄』には、まず最初のストーリーで姫草ユリ子っていう虚言癖の女性が出てくるんですけど、その子が“理想の自分に飲み込まれていく姿”に共感しちゃったんです。ユリ子は周囲を巻き込んで嘘に嘘を重ねて自分の首を絞めていくんですけど、それって今の〈ちゃんもも◎〉にも似てる部分がある。これまで私は自分に嘘をつかずに、現実的に理想を達成したり、周囲の協力で〈ちゃんもも◎〉としての人生を叶えていきましたけど、理想を追い求めるのってすごくよくわかるし、誰の心にもあり得る純粋な欲望だと思うんです。私だって、一歩間違えればユリ子になっていたかもしれない。そう考えるとひんやりしますよね。夢野さんの作品には、道を間違えてしまったら自分もこうなってしまうんじゃないかという、人間の純粋な狂気が描かれていて、そこに惹かれるんです」

その後出会った岡崎京子や鈴木いづみの作品も、ちゃんもも◎さんの価値観に決定的な影響を与えたという。

「岡崎さん作品の中では『ヘルタースケルター』『pink』が大好き。女らしさとか、女の嫌な面とか、岡崎さんの描く女性像にすごく共感してしまうし、見透かされているような気もします。それと、作品で描かれている90年代の空気感にも憧れがありますね。鈴木さんは、古本屋さんで見つけた『BURST』という雑誌に記事が掲載されていて、そこで存在を知ったんです。彼女は、飛び込んだらただじゃすまないようなところへ突き進んでいく人で、最終的に自殺してしまう。だけど、それはただの自殺じゃないような気がして。良いものを残して後は死ぬしかないっていう、特別な人だったんじゃないかなって思うんです。そういう人が残した言葉にとても興味がわいて、『いづみ語録・コンパクト』を買いました。そのすべてに共感できるとは言えないですし、同じような言葉を私は言えない。だけど、カッコいいなって思います。あんまり外で鈴木さんのことを言わないようにしているくらい、彼女のことは大切にしてますね。今回は特別です(笑)」

いつか、自分の中にある蓄積を文章にしたい

文章が持つ意味やパワーを一つひとつ噛み砕き、自身の血肉にしていく。ちゃんもも◎さんを見ていると、そのような印象を受ける。では、そんな彼女にとって、“作家”とはどういった存在なのだろう。

「視点って、一人ひとり違うじゃないですか。その視点の面白さを、みんなに伝えられる存在かなって思います。それって、テレビや映画というアウトプットの仕方ではなく、文章じゃないと伝えられないことだと思うんです。私も〈作家〉になりたいと口にしてきましたけど、今はまだその前の段階にいるような気がします。もっと努力しなければならないことがたくさんありますし。でも、自分の中に蓄積されたものを、いつか見せたい。悲惨と言われることも経験しましたけど、こういう生き方をしたからこそ書けるものがあるなら、最終的にはそれを表現したいです。そう考えると、私の人生も捨てたもんじゃない。これはこれで、結構気に入ってるんです」

絶望の淵に立たされ、それでも生きることを諦めなかったちゃんもも◎さんは、今年25歳になる。しかし、その25年間の密度は相当濃いものだったに違いない。そんな彼女が、将来的にどんな文章を書くことになるのか。その日が来るのも、決して遠くないはずだ。

公開済みのインタビュー前編はこちらです→https://develop.ddnavi.com/news/311299/a

(プロフィール)
ちゃんもも◎●1991年、神奈川県生まれ。『テラスハウス』(フジテレビ)に、初期メンバーとして出演。2014年、アイドルグループ「バンドじゃないもん!」に加入し、天照大桃子として活動中。自著『イマドキ、明日が満たされるなんてありえない。だから、リスカの痕ダケ整形したら死ねると思ってた。』の執筆や、雑誌でのコラム連載など作家としての顔も持つ。ラジオ番組「soraxniwaFM 空と庭とちゃんもも◎と」(毎週水曜16:00〜17:00)ではレギュラーパーソナリティを務める。


<ライブ情報>
バンドじゃないもん!全国ツアー2016~てっぺん目指そうぜ!武者修行編~
ツアーファイナル@豊洲PIT/日程:7月31日(日)/会場:豊洲PIT/開場 17:00、開演 18:00/チケット:前売り4800円(ドリンク代別)、当日未定
https://banmon.jp/contents/30345/

取材・文=五十嵐 大
写真=飯岡拓也