『週刊文春』連載コラムが物議を醸した「お母さん、お願い」も全文収録! 炎上を恐れない林真理子のスタンスとは?
更新日:2017/11/14
林真理子という作家は不思議な作家だ。言うまでもなく、直木賞をはじめ数々の文学賞の受賞経験があり、さらに、それら文学賞の審査員まで務めている偉い作家の先生である。にもかかわらず、彼女のエッセイを読むと、あまりにも我々一般の読者と変わらない立ち位置で書かれていて、読んでいてとても親近感をいだいてしまうのだ。
尽きないミーハー精神で、世の中に起こったさまざまな出来事について語る林氏のエッセイは、まるで親しい知人から話を聞いているかのようで、読んでいるこちらも、つい引き込まれてしまう。
『マリコ、炎上』(林真理子/文藝春秋)は、近頃話題の『週刊文春』に長年連載されているエッセイの書籍化第29弾。2015年1月から2016年1月までの連載をまとめたもので、まだ我々の記憶に新しい2015年の出来事を題材に、林真理子氏が独自の視点で語っている。
書かれているのは、100周年記念Suica発売日の行列騒ぎ、ISの犠牲になった後藤健二さんのこと、川崎の男子中学生殺害事件、神戸の児童殺害事件の「少年A」が出版した本などの時事ネタから、上西小百合議員、大塚家具のお家騒動、堀北真希と山本耕史の結婚などのゴシップネタまで、読みたくなる話題が満載だ。
なかでも、川崎の男子中学生殺害事件についての「お母さん、お願い」は、『週刊文春』に掲載後、文字通りネットで“大炎上”したもの。読んでみると、子を持つ母親として、林氏はあえて世の母親たちに問題提起をしているように思える。人によって感じ方は違うと思うが、多くの人に考えさせたのは間違いない。
この他にも、歌舞伎役者、坂東三津五郎の葬儀で、人間国宝が述べた弔辞にチクリ(「元気な人」)、大金持ちに見初められた美人女優が話題に上ると、「バリバリ整形ですよ」と言ってみたり(「ポリスとKGB」)、近所のケーキ屋のサービスに苦言を呈したり(「私の名前」)。
なるべくバッシングを受けないよう考慮しつつ、いい子ぶってマイルドに書かないのが“マリコ流”。思ったことはハッキリ言う!という姿勢が潔い。でも、章のタイトルは「叩かないでね」だが(笑)。
また、自分に対して客観的な視点を持っているのも、林氏の長所である。「このままでは、ダサい、いけてないオバさん一直線だ」と、美容院でファッション誌を熱心に見ていて、美容師に笑われたエピソードがある。名だたるファッション誌の編集者やスタイリストの友人が大勢いて、ふと「私は毎月、これだけの洋服を買って、どうして今ひとつパッとしないのであろうか」ということに気がつく。それに対し「服を買うのは大好きだが、おしゃれはそう好きではない」というのが林氏の見解だ。
また、本書に収録されたエッセイでしばしば出てくるのが、本や雑誌に対する林氏の愛情。作家だからというだけではなく、実家が本屋だったということで、本にはひとかたならぬ思いがあるようだ。「一冊の本」では、見知らぬ駅の小さな本屋に立ち寄ったエピソードが書かれている。『にあんちゃん』を文庫で買った際、初老の店主がカバーをかけてくれたくだりがとてもいい。
雑誌が読まれなくなったのを憂い、林氏はこう言っている。
“雑誌は私にいつもたくさんのものをくれた。私は「プレシャス」に出てくるような女性になり、「家庭画報」のグラビアに出てくるような生活をし、「暮しの手帖」に出てくるような堅実で丁寧な主婦になりたいとも願った。そして「東京人」に出てくるような頭のいい人にも。今の人って、いったい何を見て、何に憧れるんだろうか。”(「雑誌が教えてくれること」)
日本や外国の各地を訪れ、美味しい料理を食べ、美味しいお酒を楽しみ、太ったと言ってはダイエットに励む。洋服や着物をたくさん買ったあげく、片づけを決意しては挫折する。読者の中には、そんな林氏に共感する人も多いだろう。
どこから読んでもさらっと読めて、時にクスッとさせられ、時にへ~っと驚かされ、ウーンと考えさせられたりもする、そんなエッセイがたっぷり詰まった一冊なのだ。
文=森野 薫