誰からも求められていない 過敏で感性が冴えていた、あの頃

新刊著者インタビュー

公開日:2016/8/6

理解してくれない人には渡すつもりはない小説です

『祐介』は、バンドマンのリアルすぎる日常を描いた物語であり、尾崎世界観の底知れぬ表現欲を吐き出した小説でもある。過剰な描写も多いだけに、読者の反応は気になるのでは?

「ファンの人から、『こんな人だとは思わなかった』と思われても仕方がないです。そもそも僕はずっとこういう曲を書いてたし、理解して貰えないから小説を書いた部分もある。だから、自分のことを理解してくれないだろうなって人には渡すつもりはない小説です」

 あえて自分から嫌な面を見せにいったかもしれないと尾崎さんはいう。それは一種の踏み絵のようなものかもしれない。

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「僕自身も試されるし、読んでいる人も試される。特に僕の音楽を好きでいてくれる人にはそうかもしれない。音楽では足りない部分を書いたわけですけど、『気持ち悪い』と思う人がいたら、いつも聴いている曲の奥底に手を突っ込むとこういうのが出てきますよと答えます」

 小説の冒頭に、自分の吐き出した緑色の痰を見て、『どんなに汚いものでも、それが自分のなかから出てきたものだと思ったら妙な愛着が湧いてしまう』という一節が。尾崎さんの表現の根源にある部分かもしれない。

「人の痰だと、『うえ〜』って思うかもしれないけど、自分のものだと平気というか。めっちゃ長い鼻毛が抜けたらしばらく見たりしてますからね。愛着が出て捨てづらくなってくる(笑)。そういう部分を面白いと言って貰えると凄く嬉しいですね」

 小説家デビューを果たした尾崎さんだが、次の予定はもう決まっているのだろうか?

「編集さんに、これで終わったら、『ミュージシャンが書いたのね』って片付けられてしまうよと言われています。ただ今は全部、吐き出した状態なので……。また音楽を頑張っていこうという気持ちですけどね。でも、取材旅行に連れて行って貰ったら、すぐ書けるかもしれない(笑)」
 

取材・文=高畠正人 写真=キムラタカヒロ

 

紙『祐介』

尾崎世界観 文藝春秋 1200円(税別)

深夜スーパーでバイトをしながら、ライブとスタジオ練習に明け暮れ、一向に光の当たる場所へ行けないバンドマン祐介。相性が合わないバイトの同僚、ファンとの愛のないセックス、ギクシャクするメンバー間。唯一の救いはピンサロ嬢の瞳ちゃんと過ごす時間だった。どうしようもない不幸が続く日々の先にあったのは?