「私は公式のATMになる!」――恋愛ゲームにドはまりするオトメのあるある物語
公開日:2016/8/11
恋愛ゲームオタクの猪瀬トメ(オトメちゃん)は、二次元に本気で恋をしているアラサー女子(32)。公式グッズに惜しげもなくお金を落とし、乙女ゲームに課金、特典目当てで映画の前売り券を10枚買っちゃうオトメちゃんは、まさにオタクの鑑。読んでいて清々しさすら感じるほどだ。
『オトメちゃん』(シモダアサミ/太田出版)は、「私は公式のATMになる!」「二次元は裏切らない!!」などの数々の名言を生み出し、乙女ゲームが大好きで、ある程度「財力」を持ったアラサー女子なら、「あるあるある!!」と共感して笑えるコミックエッセイ風の物語だ。
オトメちゃんはごく普通のOL。だが、職場で怒られてトイレに行き、一人涙を流しながら反省……するのかと思いきや、ドはまりしているオトメゲーム「君プリ(君だけのプリンス)」の登場人物アラタくんに、スマホ画面越しに慰めてもらう日々。
そんなオトメちゃんの週末は、腐女子の友人・京ちゃんと池袋でクレーンゲーム。(アラタくんのぬいぐるみが目当て)。腐女子ではないオトメちゃんは、アラタくんをBLに絡ませてくる京ちゃんとケンカになったりもするが、クールな京ちゃんとオトメちゃんは気の置けない間柄だ。
別の日には限定クジのために朝早くから行列に並び、コラボカフェや原画展を見て回り、新宿→秋葉原→池袋のハシゴを繰り広げるオトメちゃん。また別の日には、京ちゃんに付き合い夏のコミケにも参加して、BLの触手本にショックを受けたりする。
そんなオトメちゃんは、ある日「君プリ」の声優イベントに行き、一人の声優にドはまりする。「やっぱり二次元と三次元は違う」「同じ空間を生きてる気がする」と、恋する乙女モードになったオトメちゃんは、その人気声優の出演しているアニメ、ラジオ、洋画、雑誌など、「この世にある全て」を追いかける。
この辺りの追いかけ具合も、声優ファンなら共感できること間違い無しだが、極めつきは、その声優が「結婚」したこと。
そのニュースを知った翌日、オトメちゃんは会社を休んでしまう。
「声優さんだって、人間なんだから、結婚だってするよ」と呆れる京ちゃんに、オトメちゃんは「結婚したって彼女がいたって別にいいよ。いいんだけど、そんなこと発表しなくていいじゃん」と涙ながらに話す。
オトメちゃんとしては、声優さんはファンに夢を与え、ファンは応援する。そこには疑似恋愛の関係が成り立っていて、プライベートは「知りたくない現実」として「ファンには見せないでほしかった」と訴えているのだ。
先日も、某有名声優と某有名マンガ家との結婚疑惑が持ち上がり、ネットやツイッターを騒がせていたが、「声優のプライベートはどこまで明かされるべきか」は様々な論争が勃発する、難しい問題である。オトメちゃんも、この「声優問題」にぶち当たってしまったのだ。
「別に本気で付き合えるなんて思ってないよ。でも、気持ちが通じる気がしてたんだもん。それだけで毎日幸せだったのに……」と涙するオトメちゃんの気持ち、きっと声優ファンなら分かるはず。
このつらく苦い経験を経て、オトメちゃんは改めてアラタくんの偉大さを思い知る。「二次元は裏切らないからね!!」という名言はここで生まれるのだ。
本作はこんな感じで、乙女ゲームや声優にはまるオトメちゃんの日常を描いているのだが、終盤、物語としても楽しめる。オトメと京ちゃんは、ひょんなことがきっかけで鹿野(しかの)という男性に出会う。彼にはとある秘密があり、しかもオトメちゃんに恋心も抱いているのだ。鹿野くんの正体。そして二人の恋愛は一体どうなるのか。気になりながらも、オトメちゃんの公式に費やすお金と時間にゲラゲラ笑えて共感できる。
アラサーオタク女子たち、一度読んでみてはいかがだろうか?
文=雨野裾