世界の怪談自慢が結集! 史上初 “怪談オリンピック”、稲川淳二が審査委員長!【第1回怪談ワールド・グランプリ詳細レポート】

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公開日:2016/8/20

 2016年8月13日、日本記念日協会によって〈怪談の日〉と制定されているこの日、東京のアトレ秋葉原1号店にて「第1回怪談ワールド・グランプリ」が開催された。

 同イベントは世界5カ国からエントリーした出場者が怪談を披露し、その腕前を競うというもの。怪談ブームといわれる昨今、怪談語りのコンテストはそれほど珍しいものではなくないが、出場者が全員外国人というイベントは前代未聞。会場には史上初となる“怪談オリンピック”を観覧すべく、約10倍という高倍率を勝ち抜いたギャラリーが詰めかけた。また、同日の模様はニコニコ動画でも生配信された。

 午後1時、開会がアナウンスされ5名の選手が入場した。イラン代表のインゴさん、スウェーデン代表のカミラさん、コートジボワール代表のベルナルドさん、ブラジル代表のシモネさん、という国際色豊かな顔ぶれだ。

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 そして5人目の選手は「アメリカ代表のバラク・オバマさん!」。意外なアナウンスに会場がどよめいた直後、ステージに現れたのは…オバマ大統領のモノマネで有名な芸人のノッチさんではないか。一体なぜ!? というギャラリーの疑問をよそに、「イエス、ウィーキャン」のお得意ギャグを披露し5番目の席に着いた。

 そして審査委員長である怪談家・稲川淳二さんが登場。「世界の出演者が怪談を語る。実にすばらしい試みですね」と挨拶して、いよいよ競技がスタートした。

オバマ大統領ことノッチさんも登場

 1人目のインゴさんは子どもの頃、イランの銭湯で見たことがあるという「体が人間で足が馬」という妖怪の思い出を、ユーモラスな口調で語った。「誰かと一緒だと出てこないけど、一人になると出てくる。むちゃ怖かったね」。日本に来てからは「押入れが怖くて、クローゼットの部屋にしか住めない」という話も、日本人には新鮮だった。

 カミラさんはスウェーデンの湖や川に棲み、バイオリンを弾いて女性の心を惹きつける「イケメンの妖怪」や、故郷で信じられている妖精、ユニコーンの話を紹介したうえで、自身がベトナム旅行中に体験した不気味な話を披露した。真夜中、ホテルで寝ていると部屋に黒い影が入りこんできて、突然電話のベルが…という怪談を、稲川怪談ばりの擬音をフル活用しながら、臨場感たっぷりに語ってみせた。

 3人目のベルナルドさんは「ほとんどのアフリカ人はゾウもライオンも見たことありません。初めて見たのは上野動物園です」といって笑いを誘ったのち、故国に伝わる呪術・魔術について語ってくれた。コートジボワールでは大きな願い事を叶えるために、家族の生命エネルギーを呪術師に差しだすことがあるという。「もし家族の運気が上がっているように見えたら、気をつけたほうがいいかも」と警告し、会場をヒヤリとさせた。

 この話には稲川審査委員長も「遠く離れた国なのに、日本と感性が似ている」と感心しきりの様子だった。

出演者は浴衣姿で登場。写真はベルナルドさん

 ブラジル出身のシモネさんが語ったのは、古いルビーの指輪にまつわる怖ろしい話。夜道をドライブしていた女性が、ヒッチハイカーを装った男に殺され、大切な指輪を奪われてしまう。ところがその指輪には呪いがかかっていて…。シモネさんによれば「ブラジル人は怪談が大好き」なのだそうで、この話も誰でも知っているほど有名だという。

 5人目のオバマ大統領が語るのはやっぱりワシントンの怪談? かと思いきや、「オバマからノッチにチェンジ!」と宣言し、ノッチさん自身が10代の頃、故郷の愛媛で体験した不思議な話を披露していた。

 これにてすべての競技が終了。「どれも怖くて面白かった。順序をつけるのはつらいですよ」と審査委員長が頭を悩ませるほど、甲乙つけがたい熱演だったが、その中から見事グランプリに選ばれたのは、スウェーデン代表のカミラさん。

「妖精やユニコーンの話には、お国柄がとってもよく表れていたし、ベトナム旅行の体験談も怪談らしい怪談で怖かったです」と稲川さんが講評を述べ、記念品として人魂型の金メダルを授与。モデルが本業というカミラさんは、「自分が怖かったことを話して、金メダルにつながったので驚いています」と流暢な日本語でコメントした。

見事グランプリに輝いたカミラさん=中央

 各国の怪談を堪能したところで、最後は日本の怪談も…というわけで、イベントの締めくくりには現在全国ツアーの真っ最中という稲川さんがナマの怪談語りを2話披露。これぞ日本の夏! という情緒と恐怖たっぷりの語り口に、場内のの温度がひんやりと下がった。

ナマの稲川怪談に会場は大興奮

 

 こうして記念すべき「第1回怪談ワールド・グランプリ」は無事に終了。閉会にあたって稲川さんは「こんなに上手な日本語で自分の国の怪談を語ってくれた彼らが、とても羨ましく、大きく見えました。10年、20年経てばきっと地球の宝になるんじゃないか、日本の怪談も進化するんじゃないかな、そんな気がします。とにかく感謝の気持ちでいっぱいです」と出演者に頭を下げ、会場は大きな拍手に包まれた。

 世界にはまだまだ私たちの知らない怪談が隠れているはず。この愉快で怖ろしいイベントが夏の風物詩として、毎年開催されてゆくことを祈りたい。

 

文=朝宮運河