“こじらせ女子”はもう古い!強く賢く、時にはゲスく。『ラブラブエイリアン』が提唱する、現代のオトナ女子の楽しい生き方とは?

マンガ

公開日:2016/8/31

 現在、フジテレビで絶賛ドラマ放送中の「ラブラブエイリアン」。原作『ラブラブエイリアン』(岡村 星/日本文芸社) は、地球人観察にいそしむ宇宙人の前で、女子アパートの住人たちが飲んで食べてしゃべりまくるだけというセリフ多めの会話劇。だがしかし、繰り広げられるガールズトークはとにかくゲスい! 地球人を愚かで野蛮だと見下す宇宙人たちもなかなかに毒舌だが、それにも増して女子たちのあけすけで下ネタ満載の本音がひどいのだ。

 女性の本音やリアルを描いたマンガは多くあれど、ここまで突き抜けたマンガは多くない。新機軸として注目された理由のひとつは「誰も恋バナしてないから」じゃないかと著者の岡村 星さんは言う。

岡村 星(以下、岡村)もちろん『ラブアン』に出てくる女子たちも、合コンには行きますし、彼氏ができれば話題にはのぼりますけど、それだけを中心には生きていないんですよね。このマンガは、私と友達が仕事終わりにだらだらずーっと部屋でしゃべっていた、そんな時代をモデルにしているんですけど、働いている以上はやっぱり会話のネタになるのは仕事のことが多かったし、恋愛至上主義みたいな友達もいませんでした。自分で働いて生活して、好きなように生きて、一緒にいて楽しい友達もいて。大きな事件はなくても、それなりに楽しかったし、それに勝る幸せってないような気がしますね。

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――欲求としてはもちろん「恋がしたい」「パートナーが欲しい」という気持ちはある。だけどそれは生活や人生のすべてではないということですね。

岡村 きっかけがあれば恋愛もするし、タイミングがあえば結婚して子供も産む。だけどその機会がなければしっかり一人で生きていく。それだけのことだと思うんですよ。実際、そういう女性の方が今は多いんだろうなと『ラブアン』を描いていく中で感じるようになりました。

――自立した女性像を提唱しつつ、どこか、「仕事しすぎて結婚できない」とか「一人が楽しすぎるからだめ」みたいな風潮が残っている気がするのですが、「別にいいじゃんそのままで!」と吹き飛ばしてくれるあっけらかんとした強さが本作にはある気がします。

岡村 他人の目が気になるのは、そこにヒエラルキーがあるからですよね。結婚したからえらいとか、どっちがイケてるとかイケてないとか、そういう意識が『ラブアン』の女子たちにはありません。学生時代は私もオタクだったから、教室内で自分の立ち位置はこれくらいだな、なんて考えることもありましたが、私の友達はみんな、ポジションなんてこれっぽっちも気にしていなかった。だからイケてる子にも私みたいなオタクにも当たり前に声をかける。とてもフラットなんです。でもそれは、自分に自信があるというのとは違 っていて。誰だって自信満々には生きていないし、悩みも愚痴もたくさんあるはず。だからといって過度に誰かを羨んだり自分を卑下したりしないで、自分のことも他人のこともフラットに受け入れ、どうすれば楽しく生きていけるかを考えている。要するに、誰 もこじれていないんです。だからこそ、他人を楽しませる面白い会話もすることができる。『ラブアン』の女子たちが当たり前のように宇宙人の存在を受け入れているのも、その延長線ですね。

――読者は、彼女たちのそういう強さに読んでいて憧れるのかもしれません。日常を生きているとどうしても、自分や他人を型に押し込めてしまったり 、誰かの決めた基準にがんじがらめになってしまったりすることがあるので。

岡村 というよりも、みなさんも本来的にはそういう人たちなんじゃないでしょうか。誰に迷惑をかけているわけでもないし、社会通念に添わなくても人は楽しく生きていける。強く賢く、楽しい女の人たちが今の姿なんじゃないかなって。結婚や恋愛をしないなら仕事をするしかない、という考え方はたぶんもう古いんだと思います。

――作中で検事のサツキが自分のことを「仕方ない 私は下品な方が楽しいんだもん」「ケツに落書きされんのもそれが消えなくて焦るのも楽しい」というセリフがあります。女性が下ネタを言うのははしたない、みたいな観念を持つ人もいると思うのですが、そういう他人の目も本作は「知るか!」と吹き飛ばしてくれますね。

岡村 たとえば彼女たちに「いい年なんだから結婚しろよ」なんて言う人が出てきたら、「うるせえよ!」ってボコボコにされる気がします(笑)。私たちはこんなに楽しくやってるのに、なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ!って。2巻でも、ユヒコが「何がリア充だよくっだらねえ」「ウチらはなぁ…リアルに必死で立ち向かってるだけなんだよ!!」と叫ぶシーンがありますが、彼女たちは毎日世間と戦っている。つまりは世間や他人の目を恐れていないということでもあるんですよね。結婚してない、出産してないというだけで否定されるような人生じゃない、自分たちは堅実に楽しく生きているんだからって。それって男も女も関係なく、人として当たり前のことじゃないですか? その部分で男女の差なんてないはずなんです。

――読者に一番人気だという「合コン回」(宇宙人の本音光線によって「やらせるつもりのない女は帰れ」とか「性欲だけで合コン来んな!! そんな抜きたかったら風俗行けよ!」などとひどい会話がぶつかりあうことになったエピソード)をはじめ、男性の本音みたいなものがときどき飛び出しますが、そういったところは男女差を意識していますか?

岡村 うーん。実はあんまりないんですよね。『ラブアン』に出てくる人たちってみんな、性別が入れ替わっても会話が成立すると思うんですよ。それはもちろん出産できるのは女の人だけだし、1巻でも書いたように男女では体力も腕力も違う。それでも人間としての本質に、それほどの違いがあるとは私にはどうしても思えないんですよ。だから、本作では“女性ならでは”みたいなことは一切意識していませんし、担当者に“もっと恋愛ネタを入れてくれ”とか“女性であることを生かして”とか言われたこともありません。それでも女性読者に支持していただけたのは、すごくうれしいですね。もうそろそろ女に対する思い込みを、女である私たちもやめませんか、と思って描いている部分があるので。

――『漫画ゴラク』は男性誌ですが、男性読者の反応はいかがですか?

岡村 楽しんでいただけているみたいです。単純に、私がめざしていた会話劇としての面白さが伝わっているようでうれしい のですが、彼女たちと似たような生活を送っている人もたくさんいるのだろうなとも思います。友達同士で集まってくだらないことを延々しゃべってだらだらする、そして週が明けたらまた仕事にいく。そんなふうに日々を過ごしていくのに、やっぱり男女の垣根はないんですよ。

――様々なしがらみをもって生きているからこそ、読んでいると「このままでいいんだ!」と気持ちが楽になるのではないかと思います。宇宙人の存在もあっさり受け入れますし、出てくる人たちはみんなとてもフラットですね。

岡村 その方が絶対に楽しいですから。せっかくの友達関係にヒエラルキーを持ち込んでも、いいことなんてひとつもない。どうしようもないことでぐちぐち言うよりは、どうすれば楽しくなるかを考える方がずっといい。このマンガだって、いつ終わるかわからない状況でいつも「これが最後」と思ってやりたいようにやってきた結果、ドラマ化していただいて、3巻まで出せることになっちゃいました。宇宙人の人気がもっと出てグッズ化されることを祈りつつ(笑)、これからも“面白い会話劇”を描いていきたいですね。

取材・文=立花もも