たった1%のための政治とは? トランプがヒラリーよりもマシかもしれない理由
公開日:2016/8/30
過激な発言ばかりが話題の米大統領候補ドナルド・トランプ氏。日本でアメリカ大統領選の報道を見る限り、なぜ彼が共和党の最終候補にまでなったのか首をかしげるが、本書を読むとヒラリー・クリントンよりはふさわしいのではないかと思えてくる。それくらい本書の内容は刺激的である。
『政府はもう嘘をつけない』(堤未果/KADOKAWA)は、もはや政治が金によって買われ、ごく一部の富裕層に有利なルールに世界が次々と塗り替えられつつある現実を、まざまざと見せつけてくる。
手始めに第1章で語られるのがアメリカの政治の現状だ。トランプは叫ぶ。「俺が大統領になったら1%のスーパーリッチどもからこの国を取り返して見せる」。トランプのいう1%のスーパーリッチとは何者なのか。
2005年、オバマ大統領2期目の就任式に集まった献金額は5300万ドル(約53億円)。その9割を支払ったのが金融、医療、エネルギーなどの巨大グローバル企業。彼らはその見返りを、彼らの望む政策や政府からの優先的契約受注という形でしっかり受け取っている。辞任した某都知事のようなせこい話ではない。TPPやNAFTA(北米自由貿易協定)のような国の重要な政策まで、彼らの都合のよいように決められてしまうのだ。
政策の決定には、政策提案のもととなる資料やデータの提示が不可欠だが、それらを作成するシンクタンクや学者にも金の力が働き、もはや中立を保ってはいないことを、著者は複数の事例や証言で指摘する。
そう、アメリカはもはやあからさまに政治に値札がつけられ、国民のたった1%の超富裕層や利益団体の政治献金が政治を動かしている。そのことにアメリカ国民は気づき始めていて、その人たちがトランプ支持にまわっているのだ。
ところでクリントン夫妻が2001年2月から2015年5月までの間に利益団体から受け取った講演料の総額は153億円と法外だ。時給にして2000万円。もちろんこれが純粋な講演料であるはずがない。著者は「クリントン夫妻の政治家としての功績を金の流れで見ると違った側面が見えてくる」という。
だから、ヒラリー対トランプの構図はマスコミが報道するような〈男性vs. 女性〉〈共和党vs.民主党〉といった単純な構造ではない。「1%」からアメリカを取り戻せるかどうか、その民意の発生もまたはらんでいる。
では日本はどうなのだろう。第2章では、政府の独断ができるよう法改正が急速に進みつつある日本の現状に警鐘が鳴らされる。
第3章では、パリのテロやギリシャ破綻といった海外ニュースも「金の流れ」を見れば、隠された目的があらわになること。第4章では、カネに牛耳られた政治家の暴走を止めるための方法と、「1%」から国民のための政治を取り返すことに成功したアイスランドの例が紹介される。
政治は私たちの暮らしに、子供たちの未来に密接に関係する。だから政治があらぬ方向へいってしまわないよう手放してはいけない。
本書は“政治家が絶対にいわないこと”を読み取る方法を教えてくれる。後の祭りにならないよう一国民として真実を見抜く力をつけるため、ぜひ本書をお勧めしたい。
文=高橋輝実