女としての劣等感に苛まれたら…世間とのズレに悩んだら…楽になるための中村うさぎの「形見分け」とは?
公開日:2016/9/1
中村うさぎは私にとって不可解な人だった。初めて彼女を知ったのはたまに読んでいた週刊文春の連載エッセイを通して。そのころの彼女は買い物依存症のような状態で、高級ブランドの服やカバンを、原稿料を前借りしてでも買っていた。しかも買ったところで使い倒すわけでもなく、買いさえすれば目的は達成されてしまうよう。そのさまはうらやましいでも面白いでもなく、まるでエッセイのネタのために買っているかのようだった。
買い物の次はホストにはまり、これまたお金を必死にかき集めては惚れ込んだホストに貢ぐという行為を繰り返す。その後は全身美容整形、そして風俗嬢(実際に働いたのは3日間だが)と続く。
ところが2013年夏に突如倒れ、生死の境をさまようこととなる。その様子は文春のエッセイでも語られていたが、知らない間に連載は終了し、2015年はじめには出演していたテレビ番組も降板とのニュースがネットで報じられた。
中村うさぎはどうしているのだろう、と気にかかっていたところに本書『あとは死ぬだけ』(中村うさぎ/太田出版)が発売となった。どうやら彼女は少し体が不自由らしいが元気であるらしい。しかしこの穏やかでないタイトルはどうしたことか。
本書の中では、心の露出狂とでも言わんばかりに中村うさぎが自身について語っている。取り繕ったり隠したりということが一切なく、羞恥の心を知らないがごとく、心のうちのすべてがあらわになっている。なぜ彼女があのような行動をとっていたのか、とてもロジカルに分析され説明されていく。そういうことだったのかと腑に落ちるとともに、中村うさぎと同じ衝動や動機を自分の中にも見るだろう。
「買い物依存症もホスト狂いも、私のナルシシズムから発生した愚行である」。ホストにはまったのは中村うさぎ40代のこと。「女としての自分」にどんどん自信を失っていった時期で、しかしまだ男にモテたいという欲望も消えてはいない。「女としてのナルシシズムと劣等感」に直面し、金で男の歓心を買ったのだ。
中村うさぎは女であることへのこだわりが強い。だがこだわりがない女などいるのだろうか。“女子会”や“女をあきらめない”などという言葉が示すように、女は女であることへの執着が強い生き物だ。男性が経験や成長を通して男になるのに対し、女性は生まれながらにして女なのでは、と思えてくる。
一方で彼女はいわゆる女らしさや女性心理には迎合することができない。だから自身がいうようにつきつめるほどに「女のパロディ」になってしまうのだ。矛盾を抱えた結果「変な人」になってしまう。
だがその「変」を大切にせよと中村うさぎはいう。「我々もまた自分の歪みを起点にして世間の物差しがはたして信用に足るほど正確なのかを問い直さなくてはならない」。
本書は中村うさぎからの現時点での「形見分け」という位置づけなのだが、稀有な彼女の鋭さはまだまだ切れ味抜群。これから先も長く活躍してほしい。
文=高橋輝実