いじめやネグレクト、DVに苦しむ女性たちのためにできることとは?【インタビュー後編】

社会

公開日:2016/9/2

 同級生からのいじめや親からのネグレクト、彼氏からのDVなどを受けて、生きづらさを抱えて苦しんでいる女性たちがいる。彼女たちに寄り添い、支援を続けてきたNPO法人「BONDプロジェクト」代表の橘ジュンさんによる『最下層女子校生 無関心社会の罪(小学館新書)』(小学館)には、社会の最下層に追いやられた15名の女性の姿が描かれている。今回は橘さんインタビューの、後編をお送りする。

⇒【前編はこちら】援助交際、リストカット、万引き…。「最下層女子校生」が抱える闇とは?

 橘さんがいつも、保護した女性たちに言い聞かせていることがある。それは「相談することはよくなるためではなく、これ以上悪くならないためのことだから、大きな期待をしてはいけない。誰かがよくしてくれるなんて夢物語はないし、最後は自分次第」ということだ。

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「保護した子たちには『更生』はなかなかあてはまらなくて、『回復』って言葉が一番しっくりくると思っていますが、それには時間がかかるんです。シェルターに来れば食べたい時に食事ができて、ゆっくり休めて親の怒鳴り声も聞こえなくて、男性からの暴力もない。安心できると同時に、自分が何をしたいかがわからなくなる子もいます。安心して過ごすなんて経験をしたことがないから、反動に苦しむケースもあります。そういう子は保護よりも、まずは治療が必要なんですよね。

 またマナーやルールを身につけずに育ってしまった子もいて、部屋がゴミ御殿になった上に虫までわいたこともあります。そして中には、被害者でないと自分がダメになる子もいました。元気でちゃんとやっていると他人が気にかけないから、常にかわいそうな状況に自分を置いて、支援者の間を転々とするんです。『あそこで酷い目に遭った』とか、お世話になった場所の悪口を言いながら。それはその子なりの処世術だろうし、被害者になることで肯定されることがうれしかったのだと思います。

 でもそのまま年を取ってしまったら、いったいどうするんだろう? 『仕事をして1人暮らしがしたい』と言う前に、学ばなきゃいけないこともたくさんあると思います。気に入らないと言葉遣いと態度が悪くなる子もいるので、そういう時は『なんで怒ってるのか、ちゃんと伝えてください』と言っています。そういうことからして、学んでいない子が多いんです」

若年女性向け保護施設の必要性

 育つ環境は本人たちに選ぶことはできないから、親からの虐待やいじめは「自己責任」ではない。しかし傷を癒し、一歩踏み出すのは自分次第だ。この本に登場した女性たちは確かに被害者だが、そこから抜け出す勇気も必要なのかもしれない。

 橘さんが今目標にしているのは、児童保護施設ではカバーしきれない若年女性の保護施設を作ること。婦人保護施設は全国にあるが、ここでも高齢化が進んでいる。共同生活のルールもマナーも知らない少女たちが、おばあさん世代と同居して厳しい規則を守るのは無理がある。「10代から30代までの女性が長期滞在できて、社会とつながる方法を身につける場所があれば」。その思いは切実だ。

「本にも登場する『いずみ寮』のような、行き場のない女の子たちが暮らせる場所があればと思うんです。でも既存の婦人保護施設につながるまでにはハードルが高くて。そして10代20代の子が、60代70代のおばあさんたちと共同生活をするのはしんどい。だから若年層にターゲットを絞った婦人保護施設が、必要なんじゃないかと思うんです」

ホテルの一室で取材を受ける橘ジュンさん。

死ねば楽になる保証はない

 同書の巻末には、『透明なゆりかご』が話題のマンガ家・沖田×華(おきた・ばっか)との対談が掲載されている。沖田さんは高校時代に援助交際で100万稼いだことや、すべて嫌になって自殺未遂をしたこと、看護師と風俗を掛け持ちしたり、企画もののAVに出演したりした話を「ギャグか?」と思うほどカラっと告白している。しかし彼女のようにコミカルに過去を話せ、かつ作品にできる人がどれだけいることか。おそらくほとんどの女性が、苦しみを打ち明けられずに胸に抱えていることだろう。

「だから私は女の子たちに、『いつか辛い記憶を話せたらいいね』って言ってるんです。今は辛くても何年か経てば振りかえられるかもしれないし、その時には誰かのために何かをできる人になっているかもしれない。もちろん人生は劇的に変わることもないし、いいことなんて本当に少ない。先のことを考えると暗くなるけど、死ねば楽になる保証もない。だからとりあえず今を生きること考えてほしいし、私たちは家族でもなんでもないけれど、補い合いながらやっていければ……。

 こちらからは声をかけず、助けてと言われた時だけ支援していますが、そのSOSをほっといてはいけないと思うんです。辛さは私たちが聞くから、生きていこうよって。女の子たちにそのことを伝えたくて本をまとめましたが、編集者には『読者ターゲットはこういうことに興味がない中高年です』って言われて(苦笑)。だったら制度を変える側にいる中高年の方に、ぜひ読んでもらいたいですね」

取材・文=今井順梨