スーパーで見かけない魚だっておいしい! 釣りにハマった元超インドア派女性が教える、その楽しさ

食・料理

公開日:2016/9/3

『おかずがなければ魚を釣ればいいじゃない』(森越ハム/イースト・プレス)

 最近では釣りをする女性も珍しくなくなった。しかし、ルアーを使ったバス釣りなど、食べるための釣りではないことも多い。魚をさばくのが面倒だったり、虫などの餌をつけるのが気持ち悪かったりするせいかもしれないが、四方を海に囲まれた日本。新鮮でおいしい魚がいくらでも釣れるのだから、しっかり味わって食べなければもったいない。そこで、今回は、ひょんなことから釣りにハマった女性イラストレーターが綴ったコミックエッセイ『おかずがなければ魚を釣ればいいじゃない』(森越ハム/イースト・プレス)を取り上げる。

ミイラ取りがミイラになった釣りの魅力

 著者の森越ハム氏は子どものころから超が付くほどのインドア派だった。それなのに、結婚してしばらくしたある日、ご主人が急に釣りをしたいと言い出した。と言っても、ご主人にもともと釣りの趣味があったわけではない。「自己流で始めるから、もし1人で出かけて釣れなかったら恥ずかしい」という理由で、「最初のうちだけでも付き合ってほしい」と言われてしぶしぶついて行ったのが釣りを始めるきっかけだった。

 毎週末釣りに連れ出されながら、最初の半年間はまるで釣れなかった。しかも、半年経ったある日初めてご主人が釣り上げたゴマサバは生臭くて食べられる代物ではなかった。青魚は釣り上げてすぐに締めなければならないことを知らなかったからだ。

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 超インドア派の彼女のことだから、こんな目に遭ったら釣り嫌いになってもおかしくはなかったのだが、ご主人ともども釣りのド素人だったのがどうも幸いしたらしい。回遊魚の来ないところでサビキ釣りをしてもダメ、仕掛けの形や針の大きさが狙う魚によって違うなど、1つ1つ自分たちで調べて釣り方を覚えて行ったため、釣れたときのうれしさはひとしおだった。そして、めったにスーパーでは手に入らないような高級魚を自分の手で釣り上げ、料理して食べたとき、あまりのおいしさに驚いて病みつきになってしまったのだ。

ド素人が自分で覚えたからこそ書ける釣り指南

 釣りの本というと、プロ級の腕前を持った釣り名人が書いたものが多い。しかし、この本は違う。ド素人のしかも女性が試行錯誤しながら釣り方を覚えて、釣り上げた魚をどうやったらおいしく食べられるかも自分で調べながら、気が付いたことを片っ端から書き綴った本だ。だから、初心者が知りたいような内容がきめ細かく書かれている。

 例えば、釣りに持っていった方がよいものや釣り場での注意事項なども、超ド素人向けに書かれている。おそらく、釣り名人から教わって釣りを覚えた人なら初めから当たり前だと信じて疑問を持たないようなこともきちんと理由が書かれている点が特徴だ。だから、これから釣りを始めたいと思っている人にとっても、かゆいところにまでしっかりと手が届く内容になっている。

おいしく食べるためのコツをしっかり伝授

 この本は、何よりも食べることを前提に書かれている釣りの本だから、食べておいしい魚の釣り方がメインになっている。そして、魚のさばき方はもちろん、釣った魚を家でおいしく食べるための持って帰り方や保存食の作り方までイラストでわかりやすく説明されている。仕掛けづくりから、釣り場でのマナー、釣りのときの服装などについても女性目線でわかりやすく書かれているから、この本を1冊持っていれば、これまで釣りをしたことがなかった人でも、自分で魚を釣ってきて食べられる。まさにタイトル通り、おかずがないと思ったら釣りに行ける内容なのだ。

 最初はド素人釣り人の森越ハム氏も、本の中でだんだん友人に教える立場になっていくのだが、友人が失敗する前に先に手を貸してしまったことを悔やんでいるシーンが印象に残った。失敗を繰り返しながら釣りのおもしろさを少しずつ感じていくことが、彼女の伝えたかった最高の釣りの醍醐味なのかもしれない。だとしたら、物心ついたときには父に釣竿を握らされていた私にはもう味わえない。最高の釣りのおもしろさをこれから知ることができる初心者が何となくうらやましく思えた。

文=大石みずき