選考委員絶賛! 「第53回文藝賞」は町屋良平「青が破れる」に決定

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

 2016年8月25日(木)、東京都千代田区にある山の上ホテルにて、選考委員・斎藤美奈子、藤沢周、保坂和志、町田康により、「第53回文藝賞」の選考会が行われ、町屋良平の『青が破れる』が受賞作に決定した。

 「健康がどうでもよくなった人間のすがすがしさと生きやすさを、わけてあげたいわ」―友人のハルオによると、彼の恋人のとう子はもう長くないらしい。ボクサー志望の秋吉(しゅうきち)はハルオから、これからも彼女の見舞いに行ってくれと頼まれた。しかもひとりで。「なんでおれが?」「入院してんねやから、かわいそやろ。見舞いいったれや」。

 秋吉は、ときにとう子に言われるまま、病室のベッドで添い寝をする。ときに夫と子どものいる夏澄(かすみ)に呼ばれて、交情を重ねる。ボクシングジムではスパーリングの日々のなか、後輩ボクサー・梅生(うめお)から「秋吉さんは、すきになったら傷つけられるようなひとばかりすきになるから、かわいそう」と呟かれた。

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 そんなある日、秋吉の家のドアベルが執拗に鳴らされる。無言でドアを開けると、そこにはとう子が立っていた。「いこう、ハルくんも、まってるよ」その言葉に誘われるように車に乗り込んだ秋吉。ハルオととう子、そして梅生の四人を乗せた車は夜のなかをさまようように走り、いつしか湖へとたどり着くのだが……。

 「おれはおれの思考を、ボクシングに捧げないと。生活を、感情を、捧げないと。いざというとき、『おれ』を越えた一個の『ボクサー』でいられるように」―生きることの不安とみじめさ、そしてひそやかに煌めく命……いま、四人の不定の生は、秋吉の体のなか、静かに、しかし激しく響き合う―。

 選考委員が絶賛した圧倒的に清新な文体で、哀しくも熱い生の衝動を鮮やかに切り取った、新たなる才能の誕生に期待が集まる。なお、受賞作・選評・受賞の言葉は、10月7日(金)発売の「文藝」冬号に掲載されるので、こちらもお見逃しなく!

町屋良平(まちや・りょうへい)
1983年、東京都生まれ。32歳。現在、会社員。東京都在住。