9月14日からの『ダリ展』の予習・復習ができる! 天才ダリの作品に秘められた意味を解説
更新日:2017/11/13
「天才を演じつづけよ。そうすれば、おまえは天才となるのだ!」
「自分はこういう人間でありたい」という願望は、だれにでもある。常に「いい人」でいたいとか、だれかに必要とされたいとか、唯一無二の存在でいたいとか。こういう欲求を満たすため、たいていの人は多少の損失をいとわずに、理にかなっているとはいえない言動を取ってしまう。「いい人」でいたいがために、他人の悪癖を指摘せず、見て見ぬふりをして過ごすのが、私の悪癖であるように。
スペイン出身の画家、サルバドール・ダリ(1904~1989)は自らを天才と呼んではばからない変人だった。とはいえ、冒頭で引用した言葉が示しているとおり、ダリ自身もそれが演技であることをよく理解していて、他人から見た自分の姿を常に意識していた。だからこそ、ダリの多種多様な芸術作品群も、その作品がどんな反応を呼ぶか、どんな効果を生み出すかといった計算のうえに成り立っている。
本書『アート・ビギナーズ・コレクション もっと知りたいサルバドール・ダリ – 生涯と作品』(村松和明/東京美術)では、そんなダリの作品を年代別に紹介し、作品に込められた意味を解説していく。
たとえば、女性の後ろ姿を描いた絵画《窓辺の少女》には、この絵のモデルであり、ダリの妹でもあるアナ・マリアへの恋心に似た愛情が垣間見えるという。17歳のときに母親を亡くしたダリは、理想の女性像を妹の内に見出したのだ。しかし、ふたりの親密な関係は、1949年にアナ・マリアが執筆した暴露本によって崩れ去る……。
ダリが生んだ作品は、絵画ばかりではない。唇をかたどったソファをはじめとしたインテリア類や、ハイヒールやインク壺のような帽子といったファッション類。さらに1940年代にはバレエの台本、舞台装置、衣装デザインを手がけた。また、1929年に公開された映画『アンダルシアの犬』も有名だ。女性の目玉をカミソリで切り裂く冒頭シーンや、ダリの絵画にも度々登場するアリの群れなど、おぞましくも目が離せない、ショッキングな映像の連続である(物語や筋書きは一切ないが)。
映画といえば、1945年公開のアルフレッド・ヒッチコック監督の映画『白い恐怖』では、夢の中のシーンにおける背景デザインをダリが担当したことで話題になった。ダリ自身は「私が残して欲しいと思った最良の部分のほとんどがカットされた」と不満タラタラだったそうだが、インパクトは充分なので、興味が湧いた人はぜひチェックしてみてほしい。
2016年9月14日(水)から12月12日(月)まで、国立新美術館にて開催される『ダリ展』で、実際の作品を鑑賞できる。ここでは、国内外から集めた約200点の作品を展示。来場者の目を否応なく引きつけるのは、やはりシュルレアリスムと呼ばれる抽象的で非現実的な作品群だろう。
ろうそくのように溶けている時計が印象深い油彩画《記憶の固執》は、ダリの代表作のひとつで、本書の表紙にも採用されている。ちなみに、この「溶ける時計」は、ほかの作品中でも繰り返し描かれているモチーフであり、ダリの時間や秩序への嫌悪が読み取れるのだそうだ。
ひと目見てだれの作品かわかるといっても過言ではない、ダリの作品のインパクトを、ぜひ回顧展に足を運んで感じてもらいたい。本書を読んで得られる知識は、回顧展の予習にも復習にも役立つものだが、どちらに使うかはこの際、問題ではない。問題なのは、「シュルレアリスムとは、つまり私のことだ!」と言い放つ、サルバドール・ダリという天才による、天才的な生き様なのだから。
文=上原純(Office Ti+)