街全体が息苦しい「東京」への魅力もなくなり、とにかくつまらなくなった…乳癌治療、離婚を経た40代独身女性による小豆島移住顛末記

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『漂うままに島に着き』(内澤旬子/朝日新聞出版)

 『漂うままに島に着き』(内澤旬子/朝日新聞出版)は、香川県の小豆島に一人、移住することを決めた40代女性である著者の、移住前後の日々について綴られた地方移住顛末記である。

 著者の出身は神奈川県の湘南エリア。その後は東京23区内で暮らしており、いわゆる「田舎」「地方」にはあまり縁がなかった。しかし、「すっからかんの何もない静かな部屋で暮らしたい」という想いを募らせ、縁があって香川県の小豆島に移住することに。

 地方移住を決めた理由は、他にもある。「以前よりも東京全体に魅力を感じなくなっている」「東京がつまらなくなってしまった」からだ。そう思うようになった理由としては、著者は「年齢のせいか」とも言及するが、一番の要因は「東日本大震災」が大きかったようだ。

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東京は、うまく言えないけれど、何かを失ったのだ。

(震災から)二年経って賑やかさが戻って来た東京は、「何事もなかった」体を装いつつ、なんとなくギスギスして映った。室内だけじゃなくて、街全体が息苦しい

 東京への魅力も感じなくなり、とにかく「つまらなくなった」著者は、新天地への引越しを決める。

 まずは住居探し。都会の移住希望者に向けて空き物件情報を公開している「空き家バンク」なるサイトで小豆島の物件探し。「海と月の見える、広々とした家」を探し、途中挫折しそうになりながらも、条件に合った物件にめぐり合い、いよいよ引越し。

 しかし、「東京から離島」への引越しはそれほど簡単ではない。受け入れてくれる業者も少なく、引き受けてもらえても値段がお高い。著者はネットを駆使して「離島に特化していること」を売りにしている業者を見つけた。他社とは圧倒的に安い値段で依頼することに。島での暮らしを始めるにあたり、他に車やソファ購入についての「奮闘記」も描かれている。

 その後、実際に移住してからの島での生活について、「交通事情」「飲食事情」「ご近所付き合い」「虫について」などが紹介されている。「地方移住の参考になれば」とのこと。著者は「良いところ」と「悪いところ」を忌憚なく述べているので、本当に地方移住を考えている人にとって役に立つと思う。

 懸案事項の一つに「ご近所さんとのお付き合い」があったようだが、「よそ者」だと不信感いっぱいに敵対視されることもなく、だからといって馴れ馴れしくされることもなく、温かい人柄に触れることが多かったそうだ。

 現状、著者は「楽し過ぎるんだけど、これ夢じゃないの?」と思えるほど、小豆島での生活は面白くて仕方がないらしい。段々私も離島で暮らしたくなってきたぞ。

 著者の視点は鋭く読者の心理 を突くこともあれば、独特なクセを感じることもある。冷静に物事を叙述していると思いきや、感情が爆発したりと、その文章の緩急がとても面白い。地方移住に興味がある人はもちろんのこと、自分自身の凝り固まった価値観を解したい方にもオススメだ。

文=雨野裾

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