自分の絵を通して「生き物ってなんだろう?」などを考えてもらえたら。【ヒグチユウコ新刊インタビュー後編】
更新日:2017/11/13
前編の『ギュスターヴくん』に続いて、後編でははじめて愛をテーマにした絵本『すきになったら』、SNS上で公開してきた『ボリス絵日記』、そしてファン垂涎のカードBOX『ヒグチユウコ 100POSTCARDS [Animals]』について話を伺った。一過性の猫ブームとは一線を画して創作活動に取り組む、人気画家の信念と真摯な思いが伝わってくる。
『すきになったら』
――『すきになったら』は、はじめて〝愛〟をテーマにした絵本ですね。ワニと少女のシンプルでストレートな言葉は、誰かを好きになったことがある人のなかにある普遍的な感情で、そのひとつひとつが心に響きました。
ヒグチユウコさん(以下、ヒグチ) キャッチコピーは“愛の物語”となっていますが、私のなかでは恋愛というより何かを想うことについて描きたかった。それはもちろん人間であったり、物であったり、何かに挑戦することだったりもします。
自分とは違う何か他のものとの関わりをどう受け入れて、どう楽しむかということは、恋愛とか愛情よりもっと複雑ですよね。特に新しいものとの出会いや、新しいことに踏み込むときってすごく勇気がいるし、自分の変化を迫られることもあるし、そういう広い意味を持たせて描きたいと思いました。
誰かのことを思っていても、受け入れられるかどうもわからなければ、永遠に続くこともないし、みんな結局はひとりで生きていかなきゃいけない。でも新しく好きになったものは自分の一部になっていくという考え方もできます。恋愛に限らずいろんなことをそんな風にとらえることができたらいいなって思いますね。
――ヒグチさんは母親でもあるので、子どもへの愛情についても考えましたか?
ヒグチ 子どもを持つことによって改めて実感したのは、自分のなかから出てきた子どももまったく別の人間だということです。私は母親とも性格が違って近いからこそ反発していたことを、自分の子どもを見ていて再認識できました。子どものことは『ボリス絵日記』に少し描いていますけど、息子は私とは違うなとつくづく思いますね。子どもがいることで特別何かが変わったわけではありませんが、唯一のメリットだと思うのは時間の使い方に無駄がなくなったこと。空いた時間を大事に使うようになりました。
この9月に出る4冊は、偶然、発売時期が重なりましたけど、どれも違ってどれも私なので、どこから入ってもらってもいいですよという感じです。絵日記に出てくるボリスは、過去のことを覚えてなかったり、人の言うことを聞いてなかったりするところがあって、そこは私もちょっと似ていますけど。
『ヒグチユウコ 100POSTCARDS [Animals]』は、いろんな動物のイラストを描きました。ポストカードの宛名面にある「ボリス百面相」もきっと楽しんでもらえると思います。
――ヒグチさんの作品を同時期にいろいろな角度から楽しめる今回のようなチャンスはめったにないと思いますが、そのあとの活動予定で何か決まっているものはありますか?
ヒグチ 今年の書籍の発売は9月の4冊で全部ですが、個展は年内にもまだ予定があります。今は再来年ぐらいまでの仕事を打ち合わせをしているところですね。私の作品は好みがわかれるものもあると思いますけど、そういうことを気にしていたら本末転倒になってしまうので、自分の仕事は自分の納得のいくかたちできっちり制作していきたいと思っています。
私ができることは絵を描くことですから、自分の絵を通して「生き物ってなんだろう?」とか「他者ってなんだろう?」ということを考えてもらえたら嬉しいです。
――ツイッターで公開している、ボリスくんの写真やイラストも可愛いので、これからも楽しみにしています。
ヒグチ ありがとうございます。ただボリスのファンはすごく多いんですが、もういい年なのでそんなに遠くない未来にお別れする時がくるはずです。でもファンの方にとっては打撃が大きいと思うので発表はしないつもりなんですね。
子どもや自分のこともよく聞かれるんですが、当たり障りのないこと以外はオープンにしていません。私にとっては絵を制作して発表することがすべてなので、もし何かプライベートのことで気づいたことがあっても、知らない振りをしてそっとしておいてもらえるとありがたいですね。
【展覧会情報】
「GUSTAVEくん by HIGUCHI YUKO」
会期:2016年10月7日(金)〜11月20日(日)※会期中無休
開館時間:11:00〜20:00(入場は19:30まで)
入場料:無料
会場:ポーラ ミュージアム アネックス
中央区銀座 1-7-7 ポーラ銀座ビル 3階
取材・文=樺山美夏