薄毛の人の当選確率は低い?! ウグイス嬢の日当は? 現役秘書が語る、非常識なエピソードだらけの選挙戦の裏側
公開日:2016/9/20
選挙ポスターの写真撮影を担当したカメラマンと仕事をしたことがある。その人から話を聞いてみると「髪が薄い候補者にはカツラをかぶせる、あるいはパソコンで修正する」「顔のしわを修整して少しでも若々しく」「撮った写真は最初から最後まで本人・秘書がチェックする」という。大の大人が写真一つにと思ったが、それもそのはず、彼らは当選すれば代議士として華やかしい道を歩むが、落選すれば多くの人が無職になってしまう。つまり自分の一生を賭けた大勝負であることは間違いないのだ。
大人たちの真剣勝負の場である選挙の裏側は、一般人の我々にとって全くの未知の世界。そんな世界をおもしろおかしく「選挙あるある」として紹介しているのが『お笑い総選挙』(藤堂勁/飛鳥新社)だ。著者は現役の衆議院議員の政策担当秘書で、自らも東京都議会議員選挙に立候補した経歴の持ち主。長年、選挙に携わってきた藤堂氏だからこそ「大人の文化祭」と称する選挙の舞台裏を詳細に説明している。
例えば、著者は選挙戦では、政治能力よりも候補者の見た目が当落に大きく左右する、つまり美男美女であれば有利であると断言している。特に面白いのが薄毛の人の当選確率が極めて低いことだ。とある区議会議員選挙でのこと、落選した15人のうち11人が薄毛だったと述べられている。中には当選した人もいたというがどれも政党からの推薦を受けた候補者で、無所属に加え薄毛である候補者の勝率は相当低いとのこと。また、ポスター写真を修整しすぎた結果、その候補者と出会っても気づかなかったと笑い話も綴られている。
また、選挙が近くなると町中を走る選挙カーにも知られざる裏側がある。「候補者の○○でございます」と朝から晩まで自分の名前を連呼する姿をよく見かけるが、自分の実現したい政策や訴えたいことは何もないのかと正直うんざりしていた。しかし法律上、走行中の選挙カー内での選挙運動は禁止されており、停車中の車でのみ演説が行えるという決まりがあり、候補者は自分の名前を連呼するか黙って移動するかの二択しかないのだという。
その他にも衆議院議員選挙に出馬する際には300万円の供託金を支払わなければならない(一定の票数を獲得できなければ没収される)など選挙にまつわる不思議な取り決めも紹介されている。街頭で市民に訴えかける役割のウグイス嬢の日当や待遇について、候補者同士の駆け引き、秘書になる方法、警察・新聞記者らが常に事務所をマークしているなど、知らなかった選挙の内幕が事細かに記されており、なかなか見ることがない政治家たちの世界を覗き見ることができる。
2016年参議院議員選挙は54.7%と戦後史上4番目の低い投票率。また先日行われた都知事選でも59.73%となっている。かつての70%以上の高い投票率だったころとくらべるとまだまだ政治への関心の低さがうかがえる。その原因の一つが、選挙戦がまるで別世界で行われているような感覚なのではないだろうか。本書を読んでみると、選挙や政治家に少しだけ親近感を覚えるようになった。政治に興味を抱く、はじめの一歩になる一冊ではないだろうか。
文=布施貴広(Office Ti+)