これで宿敵グンマーに勝てる? 認知度最下層県・栃木のイイトコロを強引にお届けするご当地コメディ漫画『ススメ!栃木部』

マンガ

更新日:2016/10/17

『ススメ!栃木部(1)(ファミ通クリアコミックス)』(一葵さやか/KADOKAWA・エンターブレイン)

 全国の都道府県の中でも、認知度・魅力度ともに低いとされる北関東3県。なかでも栃木県は、おとなしい県民性ゆえにもっともワリを食っている県である。秘境として最近ネットを中心に知名度を上げているグンマー帝国こと群馬。ヤンキー王国として悪名高い茨城。それでは栃木は? イチゴや餃子などの特産品や世界遺産の日光は有名だけど、それ以外のイメージがわかない人も多いのではないだろうか(大河ドラマの舞台にもならないし)。

 そんな栃木の魅力を世間に知らしめるべく、栃木への愛を余すところなく語りまくるご当地コメディマンガがついに誕生した。それが『ススメ!栃木部(ファミ通クリアコミックス)』(1)(一葵さやか//KADOKAWA・エンターブレイン)である。著者は生粋の栃木県民で、とちぎテレビが生み出したご当地アイドルキャラクター「まろに☆えーる」のデザインも手がけている。絵柄の可愛さはもちろん、栃木愛の強さは折り紙つき。ストーリー展開も自然で、地元民はもちろん、他県の出身者でも興味深く読めるはずだ。

 主人公は、東京出身の男子高校生・宮本真都。北は北海道から南は沖縄まで親の仕事の都合で全国を転々としてきた経歴の持ち主だ。彼の今度の転校先は、栃木県日光市にある私立高校。自由な校風が魅力で県外入学者も多い人気校である。この学校には、「栃木魅力向上部」通称「栃木部」という謎の部活があった。「栃木の魅力をもっとアピールしたい」という中禅寺晃(ゆば屋の娘)と堤咲喜(餃子屋の娘)によって立ち上げられたこの部活。規定では3人以上必要な部員が2人しかおらず、現在廃部の危機にある。どうにかして3人目の部員を勧誘したい晃と咲喜に、真都は運悪く目をつけられてしまう。2人は真都を栃木部の活動に引きずり込むべく、特産グルメを使った餌づけなどあの手この手で勧誘を試みるのだった。全力で2人の魔の手から逃げまくる彼の運命はいかに?

advertisement

 と言いたいところだが、まあ主人公君も無駄な抵抗はせず、おとなしく入部しておけばいいのである。栃木も案外悪いところじゃないのだから。

 勧誘活動を通して、栃木の魅力を強引にアピールしてくるヒロインたち。なかでも、主人公が食い気に弱いせいか、食べ物が出てくる回数は多い。実際、他県の人には想像しづらいかもしれないが、栃木の食べ物は(魚介類以外は)基本的に美味しい。本書にも既に登場した、ちたけ、ゆば、餃子、いちご。ほかにも隠れた畜産王国ということで、和牛。下仁田ねぎに匹敵する絶品、宮ねぎ。全国的に有名な佐野ラーメン。米どころで水も綺麗だから、優れた地酒を造っている蔵も多い。高校生が主役なので日本酒の紹介は難しいだろうが、今後の展開におおいに期待がもてる。

 さて、地元の魅力紹介マンガである本書には、もう1つ注目すべきポイントがある。それはお隣さんとの関わり方だ。栃木と県境を接している県には、群馬、茨城、福島、埼玉がある。そのなかでも関係が深いのが同じ北関東に属するグンマーとイバラキだ。この北関東3県は一応ライバル同士ということになっており、「こっちの方が上!」と互いにけなしあいつつも、仲がいいという微妙な関係にある。ネタ的には仲が悪い設定になることも多いが、地理的にも近いし、他地域からぞんざいに扱われがちなため連帯感があったりする。この『ススメ!栃木部』でも群馬、茨城出身の女の子が主人公たちに積極的に絡んでくるが、これも仲の良さがなせる業。基本的に、この2県は栃木にとっては腐れ縁というか、幼なじみ的なポジションにあると思ってもらえればよい。このあたりの感覚は、北関東出身者なら「うんうん」と納得してしまうはず。北関東以外の出身者の人は、「え、北関東どこ? みんな同じでしょ?」とか言ってはいけない。それを言ったら最後、3県の住民を全部敵に回すことになる。普段はケンカすることもあるけど、北関東連合軍の絆はとても固いのだ。『ススメ!栃木部』を読むときは、そのあたりの事情を頭に入れておくとより楽しめるだろう。

 栃木に限らず、マイナー県を侮ってはいけない。大都市圏や有名観光都市にはない、不思議な魅力があったりする。地方の良さを再発見するきっかけとして、あなたもぜひ栃木部に入部してみてはどうだろうか。

文=遠野莉子