男子限定料理教室で出会いはあるか?京都が舞台のほっこり美味しい物語がついに文庫化!
更新日:2017/11/13
日々の忙しさにかまけて、なるべく「料理」には時間をかけないようにしようと、「時短」ばかり考えていた。テレビでも雑誌でも、料理に関して「お手軽」「時間をかけない」ことが「美徳」のように語られることが多くはないだろうか?
けれど、時間をじっくりかけて、丁寧に作り出される料理の「大切さ」を感じられる小説がある。『初恋料理教室』(藤野恵美/ポプラ社)は、京都の路地にたたずむ、古びた町屋長屋の「男子限定」料理教室を舞台にした、心温まる物語だ。
料理教室の愛子先生は、60歳はゆうに超えているというおばあちゃん先生。品が良く、凛とした存在感と、優しい雰囲気を持ち合わせているが、どこか謎めいた女性だ。紬の着物と白い割烹着を身にまとい、4人の男性生徒に日本料理を教えている。
生徒たちにもユニークな顔ぶれがそろっている。建築家の卵である若い男性、パティシエのフランス人、女装をしている大学生、無口で無骨な彫金職人の中年男性……と、「日本料理」とは関係の希薄そうな面々が、様々な理由から愛子先生のお教室に集い、古き良き、時間と手間をたっぷりかけた日本料理を教わっている。
建築家の卵である智久(ともひさ)は、図書館で出会った司書に恋心を抱いている。彼女のなにげない一言から料理教室に通うことになるが、奥手で不器用な智久は果たして彼女の心をつかむことができるのか。
フランス人のパティシエ、ヴィンセントはお菓子作りと女性をこよなく愛しており、智久と協力して自分の店を京都に開こうとするが、思わぬ事件が起こる。
男性なのに女性の格好をしているミキ。彼が「一緒に食卓を囲みたい相手」は意外な人物だった。
家事も子育ても奥さんに任せきり。典型的な「昭和の男」である佐伯は、奥さんの勧めで料理教室に通っているのだが、どうして突然、妻がそのようなことを言い出したのか。「熟年離婚」という言葉が頭を過ぎる……。
全4話で、4人の男性が各話の主役となる本作。愛子先生から教わる料理が、それぞれの人生とリンクして、彼らの価値観を、心を、優しく変化させる。
「料理は愛情」なんて、聞き飽きた言葉かもしれないが、本当にそうだと思う。色褪せない永遠の真実で、何度でもかみしめたいテーマだ。本作はそんな「王道」をテーマに掲げながら、様々な「愛情のかたち」を描いている。
「初恋」というキーワードがタイトルにあるため、どちらかと言うと若者向けの物語なのかと思ったが、そんなことはない。むしろ、「初恋なんてとうの昔のこと」と感じている全ての大人に読んでもらいたい。簡単な文章で読みやすいのに、読者の心の奥まで沁み込むような、ほっこりするお話たちに、きっとあなたも、大切な人へ「手間暇かけた」温かい料理をふる舞いたくなるだろう。
文=雨野裾