コレを読めば、今からでも『真田丸』のクライマックスに間に合う! 複雑すぎる戦国時代が一瞬で理解できると大反響の戦国時代解説本【房野史典さんインタビュー後編】
更新日:2018/8/24
「うっそ……?」「だよね~」といった感じで“現代語訳”された会話をする武将たち。地の文にセルフでツッコんだり、括弧書きの中ですっトボケたり。とにかく、自由で自在な筆運びで次々と場面が展開し、頭にどんどん入ってくる読みやすさで、「学生の時に読みたかった!」という声もあるというのが、この本。お笑いコンビ「ブロードキャスト!!」の房野史典さんの『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』(幻冬舎)。書き始めたきっかけや、わかりやすくするための画期的な工夫について伺った【前編】に続き、【後編】スタートです。書籍化にあたり、芥川賞作家の又吉直樹さんに何やら相談をもちかけた……という話ですが……。
“男前”すぎる、ピース又吉さん
――ピースの又吉直樹さんに相談したのは、本になる前だったんですか?
房野史典さん(以下、房野) 担当編集の方から「本にしましょう」と言われたので、相談するなら又吉さんだなと思って。ご連絡したら「紙で持ってきてくれる?」と言われたのでプリントアウトしたら、けっこうな枚数になってしまいまして。「これです」って渡したら、ひとこと「ん」と言って受け取って、そこからずっと無言で読んでくださいました。横でドキドキして待ってたら……「おもろいわ」と! もうメッチャクチャ嬉しかったですね、好きだし、尊敬している先輩ですから。男前でしたね~。それで色々とアドバイスをもらったりしたんです。
――どんなことをアドバイスされたんです?
房野 この本の「はじめに」で、日本の歴史をザーッと書いているんですけど、それをやれと言ってくれたのは又吉さんなんです。「それをお前の文章で書いてくれたら、僕みたいにあんまり歴史に詳しくないヤツも、“ああ、ここのことか”ってわかるから」って。それで次にお会いした時に「アドバイス頂いたとおり、日本の歴史さらいました!」って言ったら、「あ、そんなこと言ってた?」って。覚えてなかったんですよー。でも「覚えてはないけど、今もたぶん同じこと言ったと思うわ」って言ってくれましたけどね(笑)。
――それがこの地球誕生のところから現代までを、たった3ページちょっとで説明した部分なんですか!
房野 僕は日本史全般が得意というワケじゃないんで、ガーッてさらうときに、どこをピックアップしてどこを端折るかっていうので、書くのにちょっと時間かかりましたね。それからこれはあんまり誰も言ってくれないんですけど、地球誕生のところから、っていうのが僕の一番のボケなんですよ。46億年前……そこからかい! っていう。そこはもはや科学の話で、まったく要らないですからね(笑)。あ、ちなみに又吉さんは、帯のコメントをお願いしたときも「ええよ」って速攻でOKしてくださいました。それから、これは後輩のパンサー向井(慧)から聞いたんですけど、「又吉さん、すっごい褒めてましたよ。あれおもろいわ~、売れると思うで」って言ってくれてたそうなんです。目の前で褒めてくれたのもうれしかったんですけど、僕のいないところで褒めてくれるのもうれしかったですね。ホント、男前ですわ~。
戦国武将にハマったのは「信長の野望」
――もともと房野さんが戦国武将にハマった理由はなんだったんですか?
房野 最初にどハマリしたのは、ゲームの「信長の野望」です。スーパーファミコンのやつで、小学4、5年生くらいですね。そのときは友達の誘いも断って、家帰ってからずっとやってました(笑)。そこから武将がヒーロになったんです。それからは、死んだおじいちゃんのなんですけど、子供向きではない立派な歴史の本が家にあって、それを読んだりしてました。
――戦国武将のどこがそんなに良かったんでしょう?
房野 もちろん『ドラゴンボール』とかも読んでいて、武将はそうしたヒーローのうちのひとつでした。ただそれまでに僕が接していたヒーローって、圧倒的に強い1人か、戦隊モノの5人とかだったんですけど、戦国時代の武将って少し違ったんです。頭が良くて、大勢の人を動かすというのが面白かった。大勢の人が動いて、壮大な物語になったわけでしょ。だから僕は武田信玄が昔から好きなんです。信玄自身も優秀なんですけど、家臣団も超優秀なんですよ! 戦国って、そういうところがいいんですよね~。あとは軍師も好きですね。
――第一章の「関ヶ原の戦い」では徳川家康が活躍してますけど(ちなみに表紙で腕時計を見て「息子の秀忠、遅いなー」と待ちぼうけを食っているイラストは家康。もちろんこの時代に腕時計はありませんのであしからず)、噂に違わぬタヌキっぷりは凄いですよね~。
房野 秀吉とかもそうなんですけど、やっぱ人間なんですよね。秀吉も家康も、ちょっと日和るとか、ビビるとかいうエピソードがあるんです。ただ、教科書にはそういう人間的な魅力は描かれてないんですよ。……って勉強なんで、そんなことは端から描こうともしてないんでしょうけど(笑)。ちなみに、信長、秀吉、家康の中で、今僕が一番好きなのは家康かな。信長は、革命家で、ぶっ壊していろんなことを変えた人。秀吉は、人たらしって言われてるくらいですから、組織を作り上げる能力があった。一方、家康には、全部を吸収して、持続する能力があったんですよ。あるとき家康が合戦で信玄にボコボコに負けたんですが、その後、武田家の家来だったヤツを取り込んで戦略とか軍術とかパクったりしてるんです。他にも家康の面白いなと思ったところは、信長、秀吉がやってきたダメなところをずーっと見てきてるところ。信長も秀吉も上り詰める才能は天下一品ですけど、持続させる力は家康が一番。しかも一気にドーンとはいかず、溜めて溜めていく、っていうイヤ~なやり方ですから、人気ないのは仕方ないのかもしれないですけど(笑)。
本書を読めば、今からでも『真田丸』のクライマックスに間に合う!
――そして第二章は真田幸綱、昌幸、信繁という「真田三代」についてたっぷりと書かれていますが……それにしても、裏切ったり、寝返ったり、元に戻ったりと、現代だと「あいつ……いい加減にしろよ!」とネットで叩かれそうなことばっかりやってますよね(笑)。
房野 そこを伝えたいんですよ! 戦国武将って、生き残るために「こんなことする?」ってことをやるんです。確かに現代とはテクノロジーとかシチュエーションが違いますけど、人としての心情はまったく変わってない。だから面白いんですよね。
――今、NHKの『真田丸』が話題ですけど、大河ドラマは1年間見続けないといけないのでなかなかハードルが高いんですが、この本で真田家が結構ムチャクチャなことをやってたことを知って興味が湧いて、これはちょっとドラマ見てみようかな……いや、超見たいんですけど!と思いましたよ。
房野 大河って50話くらいあるから、なかなか途中から飛び込みづらいですけど、この本でこれまで真田が何をやってきたのかを補って頂ければ、すぐに入れます! この前、関ヶ原の戦いが終わったので、こっからがオーラスですからね。極端なこと言うと、信繁(=幸村)って「大坂冬の陣」と「大坂夏の陣」でしか活躍してないですからね。そこに関係しているのが、ドラマのタイトルになっている「真田丸」なんですよ! 大阪冬の陣のとき、大坂城を守るために城の南側にあった信繁が作った要塞が「真田丸」なんですけど、これが大坂城から孤立してて、信繁は孤独な戦いをしていたっていうのは、つい最近の研究でわかったことなんです。
――最後には家康を追い詰めて、しかしあと一歩で……という「真田三代」のクライマックスでは涙が出てしまいました……。さて房野さんは現在「幻冬舎plus」で、秀吉の軍師であった黒田官兵衛を連載中ですが、今後はどの時代の現代語訳をやってみたいですか?
房野 個人なら伊達政宗か、時代だと幕末ですかね。あとは家康、秀吉、信長もやってみたいですね~。それにしても趣味でやってたことがこんなに皆さんに伝わって、褒めてもらえるなんて思ってもみませんでしたけど、もっともっと歴史の面白さが伝わったらいいなと思いますね!
★10月11日(火)20時から、下北沢「本屋B&B」にて房野さんの単独トークショー「なぜ売れない芸人の僕が、200万PVの人気連載を持ち、処女作『超現代語訳 戦国時代』がamazonランキング1位になったのか?――『超現代語訳 戦国時代』刊行記念」があります。
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取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)