「これが人生最後のセックスになるのかも…」『コンビニ人間』作者が打ち明けた、30歳を過ぎても追いかけてくる“自意識の罠”とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

 30歳を過ぎると、痩せなくなる。お肌の曲がり角をとうに越え、シワや法令線に悩まされる。体の節々が痛い――。女に生まれたからには(男性でも?)避けて通れない道だ。

 芥川賞を受賞した話題作『コンビニ人間』の作者・村田沙耶香は、『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』(マガジンハウス)の中で、この心身の変化を“淑女の思春期病”と称した。遠い昔の思春期のとき、心も体も成長痛で痛く、悩んでいた。それが大人になったいま感じている様々な変化と似ているというのだ。

 

結婚願望が芽生える

 結婚願望というものがまるでなかったという著者。しかし最近、「機会があったらしてみたい」と答えるようになったという。「若かった自分をとことん反省して、もっときちんと誰かと話し合うこと、それができたらきっと素敵だな、と思えるようになった」。“今まで知識としてしか知らなかった感情が、ある日突然自分に訪れる”という経験は初恋で終わったと思っていた。しかし、身体だけでなく心も急激な変化を遂げている気がする。「突然、感情が脱皮することがある」――これぞ、思春期と酷似している変化だろう。

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謙遜をサボるようになる

 大人になるといろんなことを手抜きするようになる。脱毛やダイエットや化粧など、「女の手抜き」にはいろいろあるが、作者が最近一番気になる手抜きは、「謙遜の手抜き」だという。「○○ちゃんの髪型、可愛いねー!」「そんなことないよー!」という女性特有の様式美(?)のような会話も、もう何年もしていないそうだ。昔は、ちょっとでも褒められると、かーっと全身が熱くなった。しかし今は、明らかに否定する流れなのに「ははは!」で終わらせる。これは自意識が治ったわけでなく、単にサボっているからだという。

最後のセックス考

 友達と酒が進むと、「最後のセックス」について話すことがあるという著者。一夜の恋に「これが人生最後のセックスになるのかもしれん…」と謎の覚悟で挑んだり、恋をしなくなって数年経って「あれが自分の人生最後のセックスになるのか…?」と頭を抱えたり。これは女にとって、切実な問題…というか、考えたこともなかったが、言われてみれば切実極まりない問題だ。淑女の思春期は、最後のセックスについても頭を抱えるというのだから、なかなか切ないものがある。

モテモテ老人ホーム

 仲間の一人が、「私は結婚したいです。でも、もしできないなら、老人ホームでモテたいです」と言った。その場にいた全員が、「自分も考えたことがある」と打ち明けたという。老人ホームでモテるための作戦はこうだ。「ちょっと若いうちに老人ホームに入る。そうしたら、ホームの中では一番若い。男性の中で取り合いになって、老人ホームに入っている他の女性から苛められる。それで…」と、妄想がさらに具体的に進化していく。作者は言う。「明日自分がモテる妄想をすることは恥ずかしいが、何十年か先のことなら許される気がする」。しかし、考えることは皆同じのため、それは物凄く競争率の高いことだと、付け加えている。

 これでもかと言うほど、30歳を過ぎてから心身の変化が訪れる。身体の変化は受け入れられるとしても、心の変化については戸惑いを隠せない。だからこそ、著者は“思春期”という言葉を使ったのだと思うが、思春期のように「あの頃はよかったなあ」と後に思えるのだろうか。きっと思えるのだと信じて、いまの苦しい自分を受け入れ、楽しむ余裕を持つしかないのだろう。

文=尾崎ムギ子