「何でもいいから4時に帰れ。できないなら辞めろ」…この命令は正しかった
公開日:2016/10/7
あるウェブサイトで、カルビー松本晃会長のインタビュー記事を目にしました。 「ダイバーシティ」が話題の中心で、特に女性活躍について語られているものでしたが、ある女性を、社員約900名、売上400億以上の事業本部のトップにするにあたって、「何でもいいから4時に帰れ」という命令を与え、それができないなら会社を辞めるか、職を辞退するかというふうに迫ったそうです。
その女性には当時小4と小1の子供がおり、ダイバーシティは働き方改革も同時に進めなければ実現しないとの考えから、こういう命令をされたようです。この女性事業本部長は、今もその命令を忠実に守っているそうですが、何も問題が起こったことはないそうです。
松本氏は「会社にベンチマーキングを作れば変わる」とおっしゃっていて、働き方改革で最初に言ったのは、「とにかく早く帰れ」「4時に帰れ」「終わったら帰れ」だったそうです。 今は「会社なんか来るな」と言っていて、昔はともかく、今はツールが揃っているので、仕事で毎日オフィスに来る必要はないということだそうです。
長時間労働や残業対策に悩んでいる会社は多く、私も相談を受けることがありますが、多くの会社で見られる基本的な考え方は、「残業には必要なものとそうでないものがあり、減らしたいのは不要な残業であり、必要な残業はしてもらわなければ困る」ということです。 要は、長時間労働もやむを得ない場合は必要と認めており、それを仕事の中身で選別しようとしていて、それは周りから見極めることが難しいので、残業がなかなか減らないということです。
ただ、ここで会長や社長といった会社のトップが、時間数にコミットして、とにかく「早く帰れ」と言い続けたとしたら、現場はその方針に基づいて動かざるを得ません。 特に日本の場合は、もともとの文化として、長時間労働を称賛するようなところがあります。「朝早くからご苦労様」「遅くまでお疲れ様」という言葉がかけられるということは、長い時間働くことが美徳でよいことだという深層心理があるからで、これは多くの経営者心理でも同じだと思います。
表面的には「早く帰れ」「効率的に」などと言っていたとしても、本音の部分では違っていたりしますから、そのニュアンスは社員にも伝わり、どんな施策をとったとしても、その徹底度は薄れてしまうでしょう。
このカルビーの例を見て思ったのは、長時間労働対策というのは実はシンプルなことで、経営者が本気になって、そのことを「本気と本音で言い続ける」ということだけなのではないかということです。
部下には「早く帰れ」と言いながら、自分はいつまでも残って仕事をしている経営者や管理者は大勢いますし、そもそも長時間労働をしなければ、仕事は回らないし業績も下がると思っている人もたくさんいます。 また、受注型や請負の仕事では、顧客都合に引きずられて、労働時間を減らすことが難しい事情もあります。現場としては業績責任もありますから、それを考えるとどうしても顧客事情が優先されてしまうでしょう。 こういう意識や環境のままで残業規制をしても、実際にはサービス残業が増えたりするだけで、あまり効果が上がらないことも多いです。
こんな状況をみていると、現場レベルの作業管理やマネジメントだけでは、残業問題を解決することはできそうにありません。顧客との交渉、作業効率化のための投資、業績低下が起こった場合の責任引き受けなど、会社全体の責任を負える人が先頭に立たなければ難しく、それができるのは経営者だけです。
その昔、毎週日曜の1日だけの休みから週休2日に移行した時期がありましたが、その頃の企業業績が全面的に低下したかというと、そんなことはありませんでした。労働時間と業績は、必ずしも比例しないということです。
人口減少の中での人材活用を考えると、長時間労働への対策は必須です。そこで最も効果的な対策は、実はとてもシンプルで、「経営者が先頭に立って、取り組みを徹底する」ということではないかと思いました。
文=citrusユニティ・サポート小笠原隆夫