キッカケは興味本位と承認欲求? 少女たちの裏稼業の行き着く先にあるモノ

社会

公開日:2016/10/17

『少女たちの裏稼業』(石原行雄/彩図社)

 私は20年間ほど、教育関係の団体の活動に関わっていた。当時は、今で言うところの出会い系サイトの代わりにダイヤルQ2と呼ばれる電話サービスがあり、活動で出会った少女たちの中には高校生はもちろん、小学生でも利用している子がいた。当時の「援助交際」は、お金をもらい一緒に食事をしたとか友だちに言えない悩みを聞いてもらったとかいうもので、潮目が変わったのはマスコミが「援助交際=売春」とセンセーショナルに取り上げてからと記憶している。当時の私は、「余計なことを吹き込みやがって」と腹を立てたもんである。

 その活動から離れて10年くらい経ち、『少女たちの裏稼業』(石原行雄/彩図社)を読んでみたら、ニュースで見聞きするだけでいると、こんなにも時代の変化を知らなかったのかと愕然とした。

「児童ポルノがネット上に氾濫」と聞けば、マニアや業者が広めていると想像しがちだが、本書によると、SNSを活用して自らの裸や陰部を露わにしている女子小中高生たちがいるという。「当の子供たちが、自身でせっせと“児童ポルノ”を量産」しており、しかし必ずしも金銭や物品のやり取りがある訳ではないそうだ。では、何故そんなことを少女たちがするのかといえば「思春期ならではの興味本位」に、「ちやほやされたい」といった承認欲求である。

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 一例を挙げると、「友だちもいないデブスです」などとブロフィール欄に書いていた少女は、画像を閲覧した男たちから「すっごいかわいいよ!」というようなコメントを寄せられるうちに、「まだ彼氏いないから早い者勝ち笑」とブロフィール欄を書き換えたそうだ。褒めて自信を付けさせるという教育的なメソッドが、歪んだ形で上手くいっているのが残念でならない。

 承認欲求が満たされれば、お金を稼ぎ始める少女も現れる。その手法に関しては、昔なら友だちグループなどを通じて誘われたり情報を得たりが主だったから、知り得るルートは限られていたが、今は少女たちがネットで独自に調べ、あるいはアクセスしてくる男たちから教わる。物品の受け渡しはコンビニ留めの宅配便を利用し、金銭はプリペイドカードやギフト券の認証番号をやり取りすれば、表面上はお互いに匿名のまま取引成立。そして、実際にセックスに及ぶ援助交際でもそうだが、親が気づきにくい点として、昔はブランド品など実体のある物を少女たちも欲しがっていたため、親への注意喚起に「見覚えのない高価な品を娘が持っていたら」というのが有効だったのが、今は遊興費に使うことが多く、物欲が薄い時代背景も影響していると著者は考察している。

 本書は、金銭のやり取りが発生しない状況から、「あたしの裸はカネになる」と気づいた少女が売春するようになり、グループを組んで組織化したり、本格的に犯罪に手を染めていき、果ては殺人事件にまで発展したりしていくケースを取材により積み重ねている。

 それは、読んでいて暗澹とした気持ちにさせられたが、同時に少女たちの知恵と工夫、その行動力には感心もしてしまった。例えば、かつては援助交際の入り口とされ、それでも高額で取引されていた下着の販売は、今では不景気により懐具合の寂しい男に合わせた、売春の廉価版になっているという。また、少女2人で男1人の客を相手する3Pは安全を担保するためで、組織化は役割分担することにより負担を軽減するためなのだそうだ。それらを少女たちは、目的を誤っているとはいえ自ら獲得しているというのだから、惜しい、実に惜しい。

 教育的観点から云えば、駄目なものは駄目と教えたところで無駄で、他のことに気持ちや行動を向けさせるのが望ましいだろう。タイトルにもある裏稼業を、なんとか表稼業に転化できないものかと思ったのだけれど、はたと気がついた。アイドル産業がそうだった。

文=清水銀嶺