「直感が働くと“スクープ”につながる」週刊文春元エース記者が明かす、取材の舞台裏【前編】
更新日:2016/10/19
『週刊文春』記者として「シャブ&飛鳥」「NHKプロデューサー巨額横領事件」などをスクープしてきたジャーナリストの中村竜太郎さんが、これまでに追ってきた事件の真相、そして普段は絶対に知ることのできない取材の裏側を明かす『スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ』を上梓した。世間の注目を集めるスクープをものにするまでにいったいどんな苦労があったのか、著者の中村さんに聞いた。
【プロフィール】
なかむら・りゅうたろう ジャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、アパレル会社勤務を経て『女性セブン』記者となる。1995年より『週刊文春』記者となり、数々のスクープを飛ばす。2014年に独立し、『月刊文藝春秋』などに記事を執筆。また『みんなのニュース』(フジテレビ系)にレギュラー出演するなど、テレビやラジオにも出演中。
“事実”をつかんで、伝えたい
1995年から2014年までの約20年間、『週刊文春』の記者として活躍した中村さん。『スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ』は、『日刊ゲンダイ』紙上での連載に加筆修正したものだ。中村さんはその連載中、「苦しいことばっかり思い出して、胃が痛くなったりしました」と笑う。
「週刊誌の仕事っていうのは、誰かを紹介したり持ち上げるっていうよりも、スキャンダルを見つけたり、世の中の不正に対して挑むような傾向が強く、勇気がいるんです。なおかつ相手に喜ばれない、むしろ嫌われることの方が圧倒的に多い。なじられたり、怒鳴られたり、水かけられたり、すごいアウェイなんですよ。そういう気苦労のことばかり思い出しましたね」
『週刊文春』では会議が毎週あり、必ず5本のネタ(新聞やネットに出ているようなものはダメで、まだ誰も知らないことでなければならない)を出さねばならないそうだ。さらに毎週原稿の締切がある中、スクープに結びつきそうなネタの取材がいくつも並行しているという激務だ。
「会議で『新聞ネタでやりたい』なんて言うと冷たい雰囲気になるんですよ。発言を聞いたデスクが『それで?』と聞き返したり、『それどこが面白いねん!』と怒鳴ったり、中にはメモをしていた手が止まって、持っていたペンを投げる人もいましたよ。それに堪えられなくて新人記者が号泣したりね、もう死にたくなりますよ(笑)。それから媒体の性格上、必ず訴訟リスクがあるんです。だから本当に重箱の隅を突くように、どこにも穴がないか、何度も何度も原稿やゲラをチェックして、間違いがないか精査するわけです。もうプレッシャーのかかり方は半端じゃないですよ。ウソは書けないですからね」
ところが世間は「週刊誌はウソばっかり」と思っている人が多い。しかし本書を読めば、週刊誌の記者が地道な情報収集を行い、多くの人から話を聞いてネタを集め、その後ひとつひとつの出来事の裏を取るため、地を這うような綿密な取材を行っていることがわかる。
「最近テレビに出るようになって、芸能人や有名人の方に『ウソ書いてんでしょ?』とか露骨に聞かれるんですよ。取材もしないで適当に書いて、人のことを傷つけてロクなもんじゃない、そんなことでお金稼いでご飯食って美味しいと思いますか、みたいなことを面と向かってガンガン言われます。もちろんそういった雑誌記者に対するある一定の見方っていうのはあると思うし、全部否定はしません。実際にそういう媒体もあるし、中には空想だけで書いている記事ってのもありますから。でも僕も、『週刊文春』も、真面目に取材をして、それを検証して、事実なのかどうかをつかんで伝えたい、また巷間言われていることが一般常識になっているけど、その裏にはこんな事実があるということを提示して、皆さんに読んで、考えてもらいたいと思ってやっているんです。そして僕らも皆さんと同じく、真面目に汗を流して働き、細かいところまで配慮しながら、ひとつの文章、記事っていうものを作っているプライドもある。それを知ってもらいたい、というのがこの本を書いた理由なんです」
直感が働くと“スクープ”につながる
本書で取り上げているのは、飛鳥涼の覚醒剤問題を追求し、逮捕にまで至った「シャブ&飛鳥」、NHKプロデューサーによる巨額横領事件、関係者の相談から明るみに出た「ルーシー・ブラックマン事件」、高倉健に養女がいた事実を追ったケースや宇多田ヒカル、勝新太郎といった芸能人をルポしたもの、また未解決殺人事件の目撃者を地道に探し、歌舞伎町では潜入取材を敢行、さらにはオウム事件や911テロの取材など非常に幅広い。いったいどうやって「ネタ」を探してくるのだろう?
「飛鳥さんの場合は、まずその話をある人から聞いたんですが、驚いたんですね。個人的には飛鳥さんはクリーンで、いいイメージしかなかったですし、内偵されているという情報もありませんでしたから。でもしばらくして、病気でコンサートを突然中止にした。CHAGE and ASKAのファンが待ちわびていたもので、これから音楽をリスタートさせるためのすごく大事なイベントだったのに、です。普通の人なら気の毒だなと思うだけなんでしょうけど、僕はそこで『何かありそうだ』と。それで関係者に取材をすると、すでに会場も押さえていて損害金は数千万円。しかしそんなリスクを犯すほどの病気なのか、と取材を重ねてスクープになったんです。ただ、情報って玉石混淆でだいたい玉の方が少ない。でもそこで見極めて直感が働くと、スクープになるんですね」
これは何かおかしい、と思ったことがきっかけとなり、取材で得た情報が正しいのかどうか、人に会ってひとつひとつ取材で潰していくと、やがて驚くべき証拠にぶち当たり、事実に迫っていく中村さん。そしてついに本人に直撃、言い訳をする相手に対して冷静に事実を突きつけ、じりじりと追い詰めていく……その緊迫した場面は、ぜひ本書で確かめて欲しい。裏付けのある確実な「事実」をつかむまでスクープは絶対に世に出ない、ということがわかるはずだ。
「おかしいと感じる“記者の勘”は、取材経験がものを言いますね。ただ一生懸命やってもスクープが成功する確率は著しく低いですけど、失敗の経験を積み重ねることによって成功の方法だったり、ひょっとしてこれは何かあるんじゃないかな、というのが見えてくることはありますね。あとは複合的な頭の使い方をすることです。ひとつのことを掘り下げればスクープが見えるわけじゃなくて、全然本質と違うようなサイドの人脈の話などを頭の片隅に入れておくと、他の人を取材をしているときに『あれ?』ってひらめいて、突然つながることがあるんですよ。ただそれがすぐにスクープに結びつくか、っていうとそうじゃなくて、モヤモヤっとしながら、浮かんでは消え浮かんでは消えって感じが続くんです。直感でキャッチした先は、それが本当なのかどうかを調べます。“裏を取る”っていうんですけど、これがね、ひと山もふた山もあるんですよ。だから本来ならばスクープになりそうな話でも、裏が取れなくて消えていく話も結構あるんです」
裏を取るため、時には100人以上も取材を重ねるという中村さん。ではそのネタを提供してくれる人を、記者はどうやって探しているのだろうか? 【後編】ではネタ元について、そして今なぜ週刊誌が面白いと言われるのか、その理由などについて伺う。
【後編】は10/20配信
取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)