なぜ、週刊誌メディアが面白いと言われるのか? 週刊文春元エース記者が明かす舞台裏【後編】
公開日:2016/10/20
『週刊文春』の記者として数々のスクープを飛ばしてきた、ジャーナリストの中村竜太郎さん。優秀な記者が集まり、取材費はケチらないという『週刊文春』の取材の裏側を明かす『スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ』には、数々の事件や話題がどう明るみに出たのかが克明に記されている。「週刊誌=ウソを書いている」という誤った先入観が見事に覆される、執念の取材が実る瞬間を目撃せよ!
“ネタ元”の探し方
スクープにつながりそうな情報を提供してくれる人、それが「ネタ元」と呼ばれる人たちだ。記者は独自に人間関係を構築し、彼らとの会話から普通ならば見逃してしまうような綻びを見つけ、水も漏らさぬ綿密な取材を行っている。
「取材で大事なのはネタ元との人間関係、ネットワークを広げることです。それはお付き合いしたり、話を聞いたりすることによって、徐々に増えるものです。しかしネットワークを広げるだけじゃなくて、そのネタ元の人が言っていることにどれだけの信用性があるかを見極めることも大事なんです」
どんなところからネタ元を見つけ、どうやって人脈を広げていくのだろう?
「まずはフットワーク軽く、人に会いに行くことです。中には胡散臭い人がいたりするんですけど、その人を排除するんじゃなくて、人間は誰しも自分にとって都合のいいことをしゃべるわけですから、どんな人の話にも情報に近づくためのエッセンスがあったりするんです。でも僕の場合は一気に親しくなろうとはしませんし、ネタを持っているから、利用できそうだからという理由でお付き合いすることはありません。そんなに相性の良くない、距離感の遠い人にどんなに尻尾を振ったって信頼関係なんてできない。結局は自分の周りの人や、もともと仲が良い人、そういう人たちに助けられる事が多いですね」
スクープは親しい人との何気ない会話から生まれるという。ネタを匂わされ、そのことについて調べて裏を取り、証拠を揃えて改めて話をぶつけると、極秘情報を話してくれる場合があるそうだ。
「相手にも立場があるわけですから、一回ノックしただけで『はいどうぞ』っていう話じゃないわけですよね。何の見返りもないのに情報を提供してくれたネタ元の人とのご縁だったりとか、良くしてもらった人への感謝は本当に尽きないですね」
週刊誌は“本当のこと”を調べて伝えるメディア
新聞やテレビと違い、週刊誌は「記者クラブ」に入っていないので、官公庁などからの情報を直接取ることができず、関係者とのパイプを作ることも難しい。そのため週刊誌の記者は、一からネタを探さねばならない。中村さんはそれを「落穂拾い」と表現する。
「取材のネタの見つけ方のアプローチとしては、正統派なところから行ったらアウトなんです。例えば警察だと、記者クラブに所属していれば捜査一課の人にぶら下がって、その人たちとの人間関係をいかに太くするかでネタが取れるケースもあるんですけど、僕らは最初から排除されているわけだし、その情報を得たところでアドバンテージはないんですね。なので、そこには僕らが耕せるものはないってわかっているんで、他の人たちが取りこぼしているような、人の目に触れないことからネタを探すんです。だからすごく遠回りをしている。でも遠回りをしているんだけども、砂金拾いみたいなもんで、一生懸命砂利をさらっていたら砂金が見つかって、それがスクープになるんです」
週刊誌の記者はいったい何が知りたくて、これほどまでにネタを追い、取材を重ねていくのだろう? 中村さんに聞くと「“事実”を知りたい、そしてその事実の面白さを伝えたい、ということです」と答えた。
「今、週刊誌メディアが面白いと言われるのは、都合のいいことばかりがメディアによって喧伝されている中で、誰しもが『本当はどうなんだろう』ということを知りたいわけです。見識ある人は、深いところが知りたいと思っている。それを丹念に調べて、伝えるのが雑誌なんだと思うんです。アナログメディアは取り残されていると言われますけど、活字の持っている力っていうのはやっぱり強いですよ。そして“意見”と“事実”は違う。事実自体が間違っている上で自分の意見を言っても、それは曲解になるし、誤解が生じる。また事実の部分が薄っぺらだったり、その事実が間違っている可能性もある。だからその“事実の重み”というものを、雑誌メディアの人たち、活字メディアの人たちは取材で追っかけているんです」
“週刊誌記者”は誰でもやれる仕事!?
雑誌記者にとって大事なことは何かと聞くと、中村さんは「情熱ですね」と即答した。
「情熱、気持ちの部分だと思います。あとはその情熱を暴走させないようコントロールすること。それは僕が常に心がけていることなんですが、正義が暴走しちゃうと、とんでもなく悪いものになってしまう。あとは自分の中で心の安寧とか平常心を保っていないと、ただ傷つけて終わるような記事になってしまいます。『週刊文春』の良さは一方的な物言いで片付けるわけではなく、真逆の意見もバランスよく取り入れるところだと思うんです。それから週刊誌というのは一般大衆に向けて発するもので、普通に働いている人たちに知ってもらいたい、楽しんでもらいたい、という思いがあるんですよ」
ちなみに中村さんは「週刊誌の記者は、その気になれば誰でもやれる仕事だと思いますよ」と言っていた。以前は誰かの紹介がないと『週刊文春』の記者にはなれなかったが、現在は公募しているそうなので、『スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ』を読んで、これなら自分にもできそうだと感じた気概のある人は、チャレンジしてみてはどうだろう?
「この本には“事実”が詰まっています。ずいぶん前の話もありますけど、事実が持っている質量があるので、とにかく面白いと思います。皆さんの知らないこと、ドキドキワクワクすることも書いてあります。ぜひ読んでください!」
取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)