BL界の芥川賞・木原音瀬の作品を羅川真里茂がコミカライズ! 吸血鬼とエンバーマー、2人の青年の出会いを描きだす

マンガ

公開日:2016/10/20

『吸血鬼と愉快な仲間たち』(木原音瀬:著/羅川真里茂:企画、原案/白泉社)

 「BL界の芥川賞」と称された作家・木原音瀬。三浦しをんも絶賛する彼女の作品は、2012年に『箱の中』が講談社文庫にて発売されるなど、BLというジャンルを超えて高い文学性が評価されている。そんな木原の人気シリーズ『吸血鬼と愉快な仲間たち』がコミカライズされ、このたび1巻が白泉社から発売された。手がけるのは羅川真里茂。『赤ちゃんと僕』や『ましろのおと』などで知られる、いわずとしれた人気マンガ家だ。

 物語は、アメリカ人の青年アルベルト・アーヴィングが日本にやってくるところから始まる。といっても、望んで海を渡ったわけではない。吸血鬼である彼は、血を吸うために蝙蝠の姿で忍び込んだ精肉工場でうっかり冷凍されて、そのまま日本に運ばれてきてしまったのだ。昼は蝙蝠、夜は人間。半端な吸血鬼である彼は、自分の意志で姿を変えることができない。目覚めたときに素っ裸の人間姿だったアルは、当然ながらただの不審者だ。すぐさま逮捕され、留置所から逃げ出した先で出会ったのが血の匂いをただよわせたエンバーマー・高塚暁。言葉もわからぬ東国の地で、アルは事情を知った暁とともに暮らし始める――。

 と、ここまでが第1巻のあらすじ。ファンタジー色の強い本作は、あらすじを読んでいただいてもわかるとおり、今のところ明確な“BL”要素はない。描かれているのは、戸籍もなく、昼間に働くこともできず、血の感じられる生肉でしか腹を満たせない青年の孤独な人生。そしてそんな人生に初めて差し込んだ光のかけらだ。

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 ちなみに、羅川がBL的作品を手掛けるのは初めてではない。95年に連載を開始した『ニューヨーク・ニューヨーク』は、ゲイであることを隠して生きてきた警官と虐待を受けて育った青年の恋物語だ。ゲイであるというだけで受ける差別はもちろん、事実を知った母親との確執、自分が自分であることへの罪悪感など、同性愛者が抱える苦悩を正面からつぶさに描きだし、恋愛マンガの枠を超えて読者の心を揺さぶった。その出会いでしか孤独も傷も癒せなかった、出会うことで初めて救われることのできた2人の関係は尊く、美しく、だからこそ次々と襲いかかる試練とそれに立ち向かうさまが読者の心を強く打ったのだ。

 人は、人によって傷つく。だが、さみしさや欠けた心の穴を埋めてくれるのもまた、誰かとの出会いだ。『ニューヨーク・ニューヨーク』に限らず、その奇跡のような一瞬を作品で紡いできた羅川にしか、本作のコミカライズはなしえなかっただろう。

 吸血鬼となってはじめて光が差し込み始めたアルの心。だが1巻のラストでは再び、衝撃的に彼を闇が包み込む。今後、暁との出会いがアルをどう変えていくのか。そして人付き合いが苦手で不器用な暁の心を、アルはどう動かしていくのか。羅川真里茂ならではの物語に期待したい。

文=立花もも